第53話 作戦会議ぱーと2
冒険者カードの石の色が変わって、呼び出されていたことを知った。焼肉する予定のお肉を大量に買い終えてから連絡をしてくるなんて嫌がらせに違いない。いったん家にお肉を置いてからとぼとぼとギルドに向かうと既に他のパーティは集まっていた。
一気に私たちに視線が向けられるが、戦功を立てたせいか文句を言ってくるのはジャックたちぐらいだ。まあ、無言でいつものように視線が寒々しい3人はいるが、それはいつも通りだ。
シモンたちから嫌われているわけではないと思うが、シンファの件からやたらと冷たい。
「次の標的はこの街、首都からイーストシティの方に少し行った場所にある。聖女フローラ・レーウェ・サン、殿下の異母兄妹が囚われている貴族の館がある街です」
ユーゴさんが淡々という。感情が一切挟まれていないことから彼の希望とはきっと異なった形で結論がでてしまったのだろう。既にパンダのようになってしまっている目の周りが苦労を物語っている。
それにしても聖女ね、確かによくあるシチュエーションだ。ユーゴさんの言葉に教会の重鎮であるという大司祭のうちの一人、ベインが微笑んだ。聖職者とはいえ重鎮にまで上り詰める人は何かがあるのだろう、為政者の顔をする。
なぜかシモンとマリカの横に立つシンファを横目で見ながらも、ユーゴさんの決断にふーんと相槌をいれる。生憎だが、私は戦況なんてさっぱりわからない。シンファがそこにいるようになった理由も同様だ。
攻撃力は大してない竜人に害意がなかったからシモンとマリカのパーティとして殿下の傍に置いてみたってとこだろうか。確かに私たちの総攻撃を受けても燃え尽きないどころか擦り傷だったことを考えれば、彼女は盾としてはとても役に立つと思う。そういった推測はしても正解はわからない。
目まで色素が薄く青銀色であるシンファは殿下の影にそっと隠れた。殿下は利用価値を解って手懐けたに違いない。
「ただそこには問題がありまして、テミス家の護衛がいると情報があります」
見た目は私と同じぐらいのヒューマンなのにレベルが73もあったルイスを思い出した。なるほど、あれの大人がいたらとても厄介だ。クリスの話では魔法が通っているものすべてを魔力ではじき返す鍛錬を積んでいるから、テミスが発している魔力よりも強い魔力の技か魔力が全くない私のような攻撃でないと戦うのは難しい。
「テミス家、一人なら引き留めてられるけど複数人は無理だと思う。何人いるの?」
「一人、三男のライルがいると見込まれている」
今回も偵察はウォルトらしくウォルトに聞くと、すぐに答えてくれた。
「おそらく相手の単独戦力の中で最高峰に位置するのがテミス家です。魔族と戦うのはレベルや技術で戦えるからまだ勝機があります。ですが、一族相伝の魔力を弾く術を持つテミス家だけはそうはいかないですね」
「テミス家は当主リル、奥方のラーナ。長男ジェルマ、長女マール、次男ルイス、次女スーラ、三男ライル、四男ルネが現在確認されている」
「そんなにいるのかよ」
「テミス家は黒い噂が絶えない貴族だからな。そもそも当主リルと奥方のラーナはもともと兄妹ってのは記録にも残ってる。長男のジェルマが生まれた段階でリルとラーナ以外の兄弟は殺されたともいわれている」
貴族の家って大変だ。実の兄弟を殺してまで守らなければいけない一族の技とか、怖すぎる。
絶対いやだ。
そこまでの覚悟をしないとルイスの使っていた魔法が避けていく技までたどり着けないのかと思うと、強さは何のためにあるのか悩ましい気持ちにもなる。
「ライルは聖女についている可能性が高いと見られています。今回、ウェルザンティとクレスニクは先陣として攻め入ってほしい。聖女を無傷で保護するのが第一優先です」
「聖女を優先、了解」
「その後ろにジゼルさん率いるケルベロスが続いてください」
ジャックは聖女と聞いて少しテンションが上がっているらしい。その軽いノリの軍隊真似事に、先日からギルドについてきている元国軍のジゼルさんは眉を寄せたが何も言わなかった。
ジゼルさんは細身に見えるが後ろに従えている屈強な男たちがひれ伏していることを見れば、相当強いのだろう。それに軍の中での二つ名がケルベロス、絶対何かしでかしてる人だ。
以前に見たステータスも「ジゼル(ヒューマン)Lv.38」と国軍で必要とされているレベルを余裕で越していた。
なによりも国軍の指揮官をしていたというのが強い、今後は本人の実力よりもそちらの方がきっと重要になってくる。
「あ」
先陣を行くということは敵対するのがヒューマンである可能性が高い。そう思ってイアンを見上げると、イアンは私が聞きたいこと「人の血が流れるところに行っても大丈夫?」を読み取ったらしくお返事をくれた。
「姉さんの血が流れないなら、どんな任務でも行きますよ」
「それなら大丈夫だね。ユーゴさん、ウェルザンティも任務受けます。ライルと戦ったときは特別報酬期待してます」
周囲がドン引きしている空気を感じながらもいつも通り、ユーゴさんにカードを差し出した。
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