第52話 安眠キーパー

大掃除当日は野営と同じように自分たちの衣服に包まって囲炉裏の傍で寝たが、家ができたならきちんとした布団が欲しい。


市場は相変わらずの人が多い、むしろ最近は王都からどんどん流入してきていてイーストシティから人があふれている。旧市街地だって今は人気の物件だ、近場の村は冒険者を雇って護衛をしてもらいながら村の規模を大きくしている。そんな中、ランク3に社員寮が与えられたのは近いうちにまた戦いがあるためだろうと私は踏んでいる。



「物乞いがいますね」

「これまでこの街にはいなかったんだけどね、王都で物乞いが一気に攫われたらしいからその影響だと思うよ」



そういいながら何もしてあげることができず、素通りした。


お金を投げてあげたって一過性だ。冒険者になれるほどの無謀さか腕力に覚えのある人はとっくにギルドの敷居をまたいでいる。ここにいるのは無謀さがなかったか、レベル5の壁を乗り越えられなかった人たちだ。



「すみません、お布団ください」



布団が山と積まれている布団の専門店、以前はなぜこの街でこの仕事が儲かるのか不思議だったが、移住者が多い今は大繁盛だ。持って来れる荷物には限界があるから布団というのは真っ先に諦められてしまう家財だ。


きっと圧縮袋が発明されたら大人気になるだろう。



「大きいの一組って年齢じゃないね、二組だね」

「全部二つで、枕もふかふかのがいいです」

「見た限り、冒険者だね。どのくらいのかい?」

「あ、良く寝れるお布団で」

「お金はあるので、値段は大丈夫です。野営ではなく家で使うものを希望してます」



私がコミュ障を発揮していたところ、おばさんの聞きたかった内容を的確に掌握していたイアンが答えてくれた。全然そういう意味だとわかってなかった。見た目が子供じゃなかったらおばさんも「ちょっと待っててね」なんて言って私に飴をくれなかったに違いない。


少し不服ながらも今の時期、甘いものは貴重だ。貰った飴玉を紙から剥いだ、茶色の少し色が透けるまあるい飴玉を口の中に放り込むと予想通りの甘い、お砂糖の味がした。


木材は家に持ってきてもらうように頼んだし、鍋類はイアンが持ち歩いていたやつがある。あとは布団で終わりだ、昨日はお弁当だったから今日は焼肉でも買って帰ったらいいかもしれない。



「これでどうだい?」



しっとりした肌触りの布に覆われた布団はびっくりするぐらいふわふわで、マットレスは手で押してみれば程よく押し返してくる最高の弾力性だった。



「最高です、家までお届けでお願いします」



私がお金を払うというとおばさんは優しく「金が何枚で、銀が何枚よ」と教えてくれた。完全に子ども扱いだ。


住所を覚えてくれたイアンが書いてくれていた、どうやら私が知っているひらがなと一部違うものがあるらしく読めても書けないことが最近判明した。

冒険者ギルドは『学がなくても腕前さえあればあなたも一流になれる』がウリだから私の書き間違えに関しても寛容だったらしい。


受け付けたユーゴさんも私の見た目がキッズだし、そんなもんでしょうぐらいだったみたいだ。早く教えてよ。待ってる間が暇で、ステータスを開いてみた。



『名前 カコ 種族 デミヒューマン

 Lv.55

 HP:377   MP:0

 力 :390   魔力:0

 物理防御:90  魔法防御:49

 すばやさ:108 幸運  :23

 スキル : 片手剣術 lv8 刀術 lv6 蹴術 lv4

 個性  : 物理的解決 投てきの熟練者 投槍の達人 剣の熟練者 打撃の使い手 のぞき見の熟練者

 称号  : 仕事を増やさない仕事人見習い

       みんなに感謝できるひと

       文化的最低限度の探求者

       将軍と縁ある人

       ドラゴンスレイヤー

       廃城メーカー(New)

       落としもの拾い(New)』


『投槍術スキルが限界レベルになったため、個性投槍の達人を習得。旋風槍、貫竜槍、閃弾槍のスキルが取得可能になりました。

のぞき見スキルが限界レベルになったため、個性のぞき見の熟練者を習得。掌握術スキルが習得可能になりました』



大型の魔物は経験値が高いと聞いていたから大型の魔物を中心に倒していたからレベルは上がっていると思っていたが、相当上がっていた。この間の戦いも魔物相手だったからレベルがかなり上がってたのだろう。

スキルは竜に特化しても仕方ないし、魔力を使う前提の旋風槍は習得しても無意味。のぞき見の熟練者とか名前がどこからどう見ても変態、私もイアンからのぞき見防止を教えてもらおう。



「閃弾槍、掌握術を習得」



称号がいやがらせの様になっているが、無視するに限る。廃城メーカーって私は城一つしか壊してません。


第一、私は何の仕事人見習いなのかすらよくわからない。初期からあるから、あのOLさん《神さま》から与えられた称号のような気がするんだよねえ。

スキルを試しに使うつもりでイアンに掌握スキルを向けてみると、種族は偽装によってデミヒューマンであるものの大方のステータスは掌握できた。



『名前 イアン 種族 デミヒューマン

Lv.48

HP:85 MP:291

力 :54 魔力:272

物理防御:50 魔法防御:98

すばやさ:98 幸運  :8

スキル:精霊魔法lv9 金縛りlv4 変化術lv6 調合lv3

個性:絶対零度 魅惑のフェロモン

称号:孤独を命ぜられた者

   ドラゴンスレイヤー

   極端なシスコン(New)

   落としもの拾い(New)』

   


見ない方が幸せなこともある。そう思って何も言わずステータスウィンドウを閉じた。振り返って不思議そうにしているイアンに微妙な顔で笑いかけておいた。

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