第51話 大掃除を早く終える方法

小さなお家か目の前にあった。何この鍵との落差、びっくりだわ。



「扉壊れてますけど」

「木材買ってきて、作りましょうか」

「イアン、何でもできすぎてお姉ちゃん怖いよ」

「それなら職人に頼みましょう」

「いや、そういう意味じゃ…まあいいや」



立派な鍵を渡されたから、大きな門でもあるのかと思ったら門は既に扉が壊れた状態で開け放たれている。

扉を直すのに木材を買ってくるとイアンは言ったが、木材からの加工ができるなら木ぐらい私が斬ってくるわ。


庭は生垣に覆われて、その葉っぱを生き生きとあっちこっちに伸ばしている。手入れをどのくらいサボっているのかは不明だ、もちろん私には木の種類はわからない。

横を見れば恐らく畑として使用されていたのだろう雑草が多いに繁っている四角く区切られた場所がある、区切りのところにこれ以上出てこないように結界が貼られている、凄い強硬策で雑草を阻止していて、手入れする気が欠片も感じられない。



「単純な結界ですが、かなり強力ですね。しかも3枚掛けしてます」

「無駄遣い極まりないね」



手入れされてるわけではなく、適当に伸び放題の状態から使える状態にするのは至難の業だと思ったがイアンが精霊とやってくれるらしい。



「精霊ってそんな雑用してくれるんだ」

「普段魔法を使うときの発声は精霊にイメージを伝えるためです。細かく内容を伝えたら、彼らは色々やってくれますよ」



野生に生きてる精霊たちに正確なイメージを伝えるのが難しいから急ぐ必要のある戦闘中は決められた文言で魔法を使用するが、急がないなら色々できるらしい。

いいな、私も精霊とお話したい。でも、イアンが虚空に話しかけているように見えている間はそんなの夢のまた夢だ。


ぶっ壊されてる門の扉から石畳の道の奥にちんまりとある家は、赤い瓦が特徴の木造家屋だ。古民家のような雰囲気があるが、この庭を見る限り、内部を見るのが怖い。明らかになにかの猛者がいる。


可愛い木彫りの細工がされて、いやドラゴンが彫刻されてる、前言撤回、可愛くない木彫りの細工がされた扉に引っ掛けられた錠前がこの立派な鍵の相方らしい。



「イアン、覚悟はいい?」

「ええ、掃除ですね」



既にイアンは精霊に指示を出し終えて、雑草が多い繁っている四角い区画を遠慮なく燃やしていた。土の精霊が薬草や食べ物になる草を保護してから、燃やしていると言う。精霊たち仕事できるな。

風の精霊と火の精霊が楽しそうだとイアンは微笑むが、光景が全然微笑ましくない。結界の中は温度が高く青白い炎がびっしりと詰まっている。下手すると鍛冶屋の窯の中よりも温度が高い。


地獄への入口のような音をたてて落ちた錠をそっとよけて、扉を開けた。扉には魔法がかけられているらしく、汚れもなく磨かれた木のつるっとした感触がある。


薄暗い玄関から奥に続く廊下は意外と長い。見た目よりこの家は大きいのかもしれない。

イアンから借りた予備のマスクを着けて家の中に突入すると、庭に面した縁側があるおかげで玄関ほどは薄暗い場所はなかった。



「意外と、まし?」

「ええ、最低限の家具はありますね。布団は購入してきましょう」



変色して有り得ないことになっていた布団を庭に投げると、雑草と一緒に燃やしてくれた。ついでに使えないヤバそうな、腐った何かがはいった鍋やそれについてたお玉なども投げておいた。

ドラゴンすら燃やし尽くす炎ならなんでも燃やせる、ドラゴンの鱗と牙以外ならなんでも燃えるゴミだ。


もう既に雑草は燃やし尽くしたらしい精霊はこっちを見てわくわくしているとイアンが教えてくれた。どこまで燃やせるか試したくて待ってるらしい。


棚に入っていた期限切れで異臭を放っていた瓶入りの液体だった何か、たぶん回復薬だったんだろう。今は即死薬になってる。それらをぽいぽい庭に投げると瓶ごと空中で燃やし尽くされて地面に着く頃には塵になった。なんて優秀なんだろう。



「風の精霊」



私とイアンでせっせと家中の窓とドアを開け放つとイアンが縁側のある廊下に立って、虚空に話しかけた。


突如、家の中で風が吹き荒れた。思わず近くの柱に掴まるが力を入れ過ぎたら柱が割れるかもしれないと、どうでもいい心配をすることになった。



「姉さん、家の塵と埃を表に出して、燃やしました」

「うそー…ありがとう」



魔法ができたらこんなに便利だなんて…、埃が積もっていた床の上に塵ひとつ残っていない。


その後、水の精霊と風の精霊の丁寧な仕事により木の部分は全て水で洗われて、家に到着してから約1時間。私がしたことといえば、扉と窓を開けたのと不用品を庭に投げたことぐらい。


ボロボロだった家のお掃除がイアンにより強制的に終わらされた。



「これで姉さんと市場にデートにいけますね」



私が先日教えた、2人で買い物に行くことをデートと言うのだと伝えたんだった。

確かに、確かに市場にこれから行って買い物をするんだけど、扉を買ったり、壁の補修材を買ったり、それデートかなあ?


今回の立役者たち、私には全く見えないが、精霊たちは庭で胸を張っているらしい。土の精霊が植え直した草花に、水の精霊がスプリンクラー式に水をあげている。



「今日は私の奢りで、ご飯、行こう。…イアン、精霊ってご飯食べれるの?」



イアンにもわからないらしいから、とりあえず行きつけのターゴおばちゃんのお弁当を5つお土産にして庭に置いておいた。


いや掃除してなくても、いつも戦闘で大活躍の雷の子だけ仲間外れにするわけいかないでしょう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る