第50話 社員寮

なんだか定番過ぎて蔑む目に慣れてきた気がする。いつも通りシモンとマリカ、シオリさんの冷たい蔑む目を通り過ぎて、眉間の皺で書類が挟めそうなぐらいになっているユーゴさんに報告しに行った。



「えーっと」

「今度は何を持ち帰って来たんですか」

「……たぶん、ドラゴン」

「はあ」



重苦しいため息をついたユーゴさんが怒る前に補足の説明を加えると頭を抱えだした。



「いや、まさか、ドラゴンが女の子になるなんて思わなかったよね」

「ええ、私も初めて聞きましたが、膨大な魔力とステータスを見たら納得せざるを得ないですね」

「ステータス?」



最近、のぞき見防止の人が多いからのぞくの忘れてた。自分のレベルアップの音も無視してる。イアンが温かいなら私の魔力とMPは変わらずに0だとわかってるから見るだけ無駄だ。スキルも正直足りてる。


「シンファ(竜人) Lv24」


意外とレベルは低かった、というか、竜人?それってもしかしなくても魔族じゃないですかね。

あどけない寝顔を晒してぐうぐう寝ている少女からそういった気配は一切ないが、私の気配を読む力なんて何の役にもたったことがない。



「レベルの割に強かった、私のメテオストライク3回とイアンの魔法も食らってたよね」

「ええ、粉塵爆発だけでなく神の怒り《ゼウスの一撃》そのものも当たってましたね」

「防御が異常に高いですが、攻撃がほとんどないですね」



こんな細くて白いワンピースが似合う少女なのにこの子は盾を持たないタンクらしい。すごい他のパーティメンバーの精神力にダメージを与えにくる、タンクとして使うことに罪悪感を感じるタンクだ。


私の背中で眠る彼女を手当したそうにマリカがじっと見ている。美少女に見つめられて辛い。やめて、穴あきそう。



「この攻撃力なら対してダメージにならないでしょうから、そのままマリカさんに治療してもらって大丈夫でしょう。彼女らに説明はしておきますが」



その先をユーゴさんが口ごもる。もちろん魔王についている竜人なら倒さなければいけない。クリスみたいに地下牢のんびり出来て万歳みたいな捕虜はそうそういない。

いや、そんなの複数人もいて欲しくないけど。それに竜人だと竜に変身されたらあっという間に地下牢が壊される。


それにも関わらず少女はヒューマンと何一つ変わらない見た目をしている。ついでに荷物を持てるかすら怪しいぐらい細い手足、全体的に白い少女は儚げでどこか守りたくなる雰囲気を醸し出している。


治療する医務室に運ぶ準備をシモンと協力してやりながらも、ドラゴンの防御力と魔法耐性を考えたらユーゴさん1人での討伐は重荷に違いないことに気がついた。

それにギルドでの立ち位置的にもユーゴさんが見放されたら困る。



「何かあれば、私たちが討伐するから呼んでください…」



担架で運ばれるシンファという竜人の少女を見送りながらそういうといつもの2割増の冷たい視線を浴びせられた。



「そういえば、こちら」

「え?」

「以前にあなたたちは家が欲しいと言っていたでしょう?ランク3の人たちをすぐ呼べるようにギルド近くの家をパーティにつき1軒確保しました」



金属が重なり鳴る小さな音を聞いて、ユーゴさんから手渡された封筒をひっくり返した。出てきたのは2つの、かなり頑丈そうな鍵だ。どんな家か、不穏な気配が漂ってきている。



「これさ」

「早々壊れない頑丈な扉です。しかし、カコさんに殴られたら跡形もなくなると思いますのでそれは試さないでください」



私、そんな扱い!?明らかに雑な扱いだ。イアンに対する繊細な扱いとは雲泥の差、酷すぎる。

無言のまま目をキラキラさせて喜んでるイアンを横目で確認して、ギルドからの微妙な好意を受け取ることにした。


社員寮ということは、24時間365日、いつでも好きなときに呼びだすね!というメッセージと同義だと私は以前に学んでいる。



「それじゃ、帰りますね」



仕事に埋もれていくユーゴさんを横目に私たちはそっと新しい家に帰ることにした。不穏な気配しかないけど。


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