第49話 いつも通り

予想よりもちょっと多かった50人の新たな仲間、もともとは国軍だった人たちが仲間になってギルドの様子も少し変わってきた。見覚えのない人たちがどんどん増えているし、掲示板からアイテム収集が減って、代わりに魔物退治と薬草集めが増えた。

昨日も昨日で見た掲示板の前はいつも通り大盛況だった。


黒々とした世界に白い絵の具を落としたように急激に世界の色が変わっていく。眼下に見える雲は光を反射して眩いばかりだ。世界がどんなに変わっても変わってこなかった夜明けにほおっと感嘆のため息をつく。



「きれい」

「ええ、とても」



イアンの視線は明らかに朝陽に向いていないがそう同調してくれた。吸血鬼なら、もしかしたら太陽が苦手なのかもしれない。


大きく伸びをすると凝り固まった身体の節々から軽い音が響いてくる。別に私たちは今、自分たちの好みで城門の上を陣取り夜を明かしたわけではなく、ギルドから提示された任務のうちの1つをこなしていた。


東西の門には必ず一定レベル以上の冒険者が配置されて夜の間見張りをしている。順番に回ってくるこの任務は拒否権がない。自由を求める冒険者が唯唯諾諾と従うのはギルドが落とされたときの不自由さを想像してるからだと私は思う。



「よし。一日休んで、次は大型魔物退治でも行こうか」

「そうしましょう」



一日休んで気分はちょっとすっきりしてからギルドに向かうと、ユーゴさんから渡された任務は今回もクマガース退治だった。ランク3を遠くに置いておきたくないギルドの意向で街の近くにいるクマガースを淡々と倒していく。前に出逢ったクマガースと本当に同じ種類か疑わしいぐらい強さが違う。



「メテオストライク《隕石》」



昔の私なら「可愛い!」と言っただろう獰猛な肉球パンチをものともせずに鉄球は

クマガースを吹き飛ばした。

骨すら残さず木っ端微塵にした私はクマガースがいたところを眺める。ドラゴンと違って火に弱いクマガースは私やイアンの攻撃だと塵しか残してくれない。

最近は風圧で塵がどこかに行かない程度に加減ができるようになってきた、それでもクマガースのアイテムはよく燃えるみたいだ。



「神の怒り《ゼウスの一撃》」



咆哮で接近してきたもう一体のクマガースに私が気付いたと同時に、イアンの魔法がクマガースに直撃した。こっちも使えそうなアイテムはなに一つ残ってない、黒焦げだ。


残念なことにアイテムは何も手に入らないものの、今日の目標は達成した。



「さて、今日はどこの美味しいご飯を」

「姉さん!伏せて!」



イアンの言葉になにも考えずに従うと私の上を通過していく白銀の魔力の塊、視覚で認識できるぐらいの魔力をこんな風に放てるのはドラゴンだけだ。なんでこんな街に近いところでドラゴンがでてくるのよ。


今回も特別報酬を上乗せしてもらわないと割に合わない。


陽の光を反射して神々しく輝くドラゴンは神さまの遣いと言われても納得する真っ白な鱗を持つドラゴンだ。でも見た目に惑わされては私たちも街もぐちゃぐちゃになるに違いない。



「メテオストライク《隕石》、メテオストライク《隕石》、メテオストライク《隕石》」



私が連続で3投したのちに走って、最寄りの岩の後ろに滑り込んだ。



土壁アースウォール、神の怒り《ゼウスの一撃》」



メテオストライクがドラゴンに直撃する前からドラゴンをドーム状にした土で覆い始め、口が閉じる直前でメテオストライクの粉塵が舞う中心にいるだろうドラゴンに雷の攻撃が飛来した。

前回同様にえげつない攻撃だ。きっと今回もアイテムは鱗と牙ぐらいしか残らないだろう。


内部で起きた爆発のせいで脆くなった土壁が崩れ落ちると。


そこには女の子が眠っていた。


ドラゴンはどこにもいない。その代わり倒れている少女を見ると真っ白なワンピースは粉塵と爆発の衝撃のせいか、煤けていて頬に土もついている。見えている真っ白な手足には細かい傷がたくさんついている。



「いや、どうしてよ」



さっきまで私たちが攻撃していたのはドラゴンのはずだった。初めにブレスを放ってきたことから見間違えなんてことはありえない。それなのに土壁が崩れたらなんで女の子がいるんだ。


無言でイアンを見やるとゆっくりと首を振った。イアンが知らないことを私が知るはずもない。


すやすやと眠る15歳程度の女の子を惨殺する勇気なんてあるわけもなく。



「連れて帰るか」



髪も肌も服もすべて真っ白な女の子を眺めて、ため息をついた。




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