第48話 対話

みんながバタバタしている中、ようやく隙を見つけることができた。敵の事情を知るにはやはり話してみるのが一番いい。

入口には堅牢な魔法を施された牢の入口を見る、魔法陣にはなにかの効果があるのだろうけれども、魔法を感じることがない私には無意味だ。そのまま素通りして以前降りた階段を以前より軽く降りていく。


牢の向こう側に前よりも顔色の良い魔族の姿があった。



「どうも、会うのは3度目と私は認識してるけど」

「あぁ、あんたか」



魔封じを施された牢の中で、意外と快適に過ごしてるのだろう魔族に言葉をかけた。牢と言えど、布団はもちろんのこと個室内にトイレと机が置いてある。定期的にこちらが確認するという条件付きだが、机の上にはペンとノートも置いてある。

今の彼はちょうどそれに向き合っていた頃合だったみたいだ。



「教会のやつはちょっとめんどくさかったんだ。俺らが改宗できるわけがないだろ?」

「心の中ぐらい自由でいいと思うわ」

「それ誰かに聞かれたら大変なんじゃないのか?」

「関係ないよ」

「そうか」



妙に人に気遣いを見せるこの魔族は操り士、しかもドラゴンを操るらしい。


必要な情報はユーゴさんがもう聞き出してる。私がこっそり侵入したのは相手を知らずに戦いたくなかったから、いわゆる雑談をしにきたのだ。



「気になっててさ、ドラゴンって可愛い!って感じで手懐けるの?」

「お前らがはじめに吹き飛ばしたやつはそんな感じだ。二度目のドラゴンはあのドラゴンの好意だな、助けてもらった」

「へえ、話せるの?」

「操りテイマーと俺らは名乗るが、色々な言語を話す魔力を持つことでそれを可能にしている。とはいえ、知能が足りないやつと話しても仕方ないけどな」

「面白いね」



犬猫を訓練して手懐けるのかと思ったらドラゴンの一部は知能があって話して協力とか、なんたるファンタジー、期待を裏切らないところがいい具合だ。


疲れたように椅子にもたれ掛かる彼は、なんというか普通だ。見た目も話している雰囲気も普通の人間過ぎる、もっと角が生えてたりしてくれないと魔族感がない。



「名前は?」

「クリス、しがない宮務めだよ」

「種族っていうの?種族は?」

「操りテイマーというのが種族だ。他の竜人ハーフドラゴンや狼人間というのと、同じ部類だ。魔力を使用した対話ができる種族はみんな操りテイマーだ」

「魔族っていうからもっとこう、雰囲気ある感じかと思ってたな」

「油断するなよ…と俺から言うのも変だな」

「変だねえ」



ひとしきり笑ってからクリスを見やると苦笑いを浮かべていた。



「こうやってあんたらを見ると、変な感じだな。人間も考えて悩んで、笑って」

「一緒でしょ?」

「あぁ。特にあんたは子どもだな」



もっと甘えて欲しいとか、中身は見た目よりも老成しているせいで子どもとして扱われている感じはしなかったが、魔族の彼からしたら感想が異なるみたいだ。もしかしたら無知という意味かもしれない。



「そう?」

「あの男どもが囲いたくなるのもわかる。危うい、だから構いたくなるんだな」

「私もあなたに普通だなと思った」

「あの吸血鬼の方が俺より魔族としてのランクが断然に高いからな。あの男を普通の仲間としてるあんたは魔王ぐらいしか違和感を感じないと思うぞ」



想像していた通り、イアンの方が魔族の力があるらしい。イアンのスキルでここに運んできたからイアンの方が強いのだろうと思っていたが案の定だ。



「俺らは人間は死んで土に戻らない摂理に反した種族と聞いていた。実際、倒された直後は土に還らないが時間が経てば土になる」

「うん」

「野蛮だと俺らが思う部分はお互い様だと思うんだがな、コダマはそれをよくわかってたってことか」

「コダマは魔族にしては変わってるの?」

「あいつ自身、魔族かどうかも微妙なところだな。あぁ、あんたと似てる」



私と似てる、まさか、この世界に来てから感じていた違和感の実態が近い気がする。



「テミスって知ってる?」

「あぁ、名前ぐらいは」

「戦ったことある?」

「一度だけ、殿下に止めてもらわなかったら殺されてたな。剣も魔法も当たらなかった、剣すら魔力を帯びてるから避けるんだ。あいつらが常時放出している魔力より強い魔力が通る剣でないとあいつらを斬れない」



ルイスが私の刀に刺さって満足気だったのはそういうことか。私の刀なら魔力関係ないから斬れる、それを確認してたのか。



「戦ったのか」

「私なら彼らを殺せると喜んで帰っていったよ」

「気に入られてるな」



深いため息をついて、知りたい情報を手に入れたので帰ることにした。



「じゃ、またね」





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