第35話 護国軍

ジャックが色々と教えてくれた。まずシモンとマリカはラディウス王子の専属護衛になったらしい。まあランク3以上の猛者が来たときはギルド長が迎撃する条件付きだ。

以前より魔族との戦いに備えて前線基地として要塞化しているイーストシティをラディウス殿下率いる護国軍の拠点とした。結界は聖術と魔術の両方で組まれて以前より強力になっている。


レオナルド殿下(王様と認めてないギルドは殿下と称することにしたらしい)は西側から掌握を始めて、人狩りをしているらしい。主に魔法使いの。その徴集にくるのが吸血鬼だったために、雰囲気が似ていたイアンに斬りかかったらしい。


その話を何回も聞かされたというジャックは気怠そうだ。



「ふーん」

「にしても、お前、すごいな。普通躊躇うだろ、相手人間だろ?」

「イアンが危ないと思ったら咄嗟に動いた」

「こっわ!そっちの男がお前に依存してるのかと思ったら共依存かよ、俺は魔王よりカコが怖いわー。お前の魔法のない単純物理だから来る気配が読めねえもん」



それでもぶっ飛ばしてくれたのは、清々しかったと言い切るジャックは本部待機を命じられているらしい。あちこちから毎日逃げてくる避難民や冒険者の相手をして、特に今日私たちに絡んできてたフラッツァーというパーティのキルトがウザいらしい。

俺たち可哀想みたいな扱いを冒険者が求めるんじゃねえよと吐き捨てるジャックは相当気持ちが疲れてる。


イアンがいればあいつらが来ないから便利とまでいう。裏表がないからなんとも怒れない。人が多いから冷んやりするぐらいがいいわーとかまで言うほど追い込まれてる彼らにより怒れない。イアンも怒らなくていいと、首を振る。

まあどこかのパーティと組むならたぶんクレスニクだろうと思うし、ジャックがイアンに慣れてくれるならそれに越したことはない。


クダを巻いているジャックからあれこれ聞いていたら包帯に覆われた人が近づいてきた。剣の柄に手を置いてお迎えすると、怯んだらしく目を泳がせている。

私が剣呑な空気を出したことでジャックも気がついたみたいでニヤニヤ笑う。いや、笑うなって、何を期待しているんだ。


他に助けを求めるように周りを見ても仲間はいない。ようやく覚悟を決めたらしく短く息を吐ききって話しかけてきた。



「その、悪かったな」

「それ、言うの私なの?」

「え、あ、あぁ、すまなかった」



私に対する恐怖の記憶が拭えないらしく吃りながらイアンに向かって謝った。イアンが応じて、許していた。優しいなあ。



「イアンが許すなら私もいいよ。私もやりすぎたね、ごめんなさい」

「あ、あぁ。パーティのやつらにも落ち着きを覚えるいい教訓だと言われた。今後気をつける」

「あとさ、聞きたいことがあるんだ」

「なんのことだ?」

「イアンに似てた魔族はなんて呼ばれてた?」



イアンはステータス表示こそデミヒューマンだが、魔族の一部である吸血鬼だ。イアンに似ていたということは、イアンがかれこれあっていない同族の可能性があるのではないかと思ってキルトに聞いた。


仄暗い色でキルトは答えた。



「メアリーと呼ばれていた」

「メアリー・ラグラステール、か?」

「知っているのか?!」

「魔王率いる魔族と人間が戦うのは、私が生きている中で二度目だ。以前の戦いでも有名だった、夢送りのメアリー・ラグラステール」

「今回は人形作りのメアリーと名乗っていた。畜生!大切な仲間だったのに、俺たちは守れなかった」



そこまで言うとシクシク泣き出した。

なるほど、ジャックが言いたいのもわかる気がする。1回目の私やイアンは情報を入手できるのと、1回目だから大変だったねと思う。

これが2度目、3度目になるのだろうジャックは天井を見上げて、全身でめんどくさいを表現している。


どうしようかなーとイアンを見るが、知り合いらしいメアリー・ラグラステールについて何か考え事をしているみたいだ。



「カコさん、イアンさん。パーティ名で呼んで反応しないならパーティ名をカコとイアンに変えますよ?!話があります、こちらです」



ややお怒り気味のユーゴさんに連れられて、ジャックにキルトを押し付けて逃げることに成功した。ジャックが口パクでふざけんなと言ってる気がする。


シモンの真似をして手を合わせて合掌でごめんなさいを表現するが、それを見たジャックは吐く真似をしてくれた。納得いかないが、やはりあれで許されるのはイケメン限定らしかった。

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