第36話 魅惑のフェロモン

キルトの件は既にギルドのロビーでは躾事件と呼ばれている、その件についてユーゴさんに怒られるかと思ったら謝られた。

以前より濃くなっている隈は元からの皮膚の色のようになってきている。最近、その隈が取れたとこを見ていない。


クマガースが強くなっていた、イーストシティから離れるほどに強力なクマガースに出会ったと伝えたらユーゴさんは興味深そうに聞いていた。


以前は雑多な物置になっていた会議室は末端までしっかりと椅子が並べられて100人以上入れる状態になっている。

ここで集合して魔王対策会議をするのも近いのかもしれない。



「専門家に聞いた方がいいかと思いまして。魅惑のフェロモンへの対処法はありますか?」

「メアリー・ラグラステール対策か。ないことはないですが」

「キルトさんですね。そうです、彼女の魅惑のフェロモンで既に10以上の魔法使いが連れていかれました」

「姉さんは私の魅惑のフェロモンが効いてなかった」



え?いつの間に魅惑のフェロモンを使って私のことを誘惑してたんだろう。思わずまじまじとイアンを見るが、よくわからない。


いつも通り素敵なご尊顔だ。有難や、有難や。



「魅惑のフェロモンは吸血鬼が吸血したい相手を引き寄せるために使う個性だから、この間、私は制御できてなかったのですが…」

「え?この間と言わず、いつもイアンは見目麗しくて素敵だよ?」

「この通りです」

「魔力を0にしておけばいいということですか」



ユーゴさんが魔法使いにMP0にしろとは言えないと頭を抱えた。私の扱いが段々酷くなってきてる気がする。

不服そうな私に気がついたらしく。イアンがふりかえって、見たことない悪戯っぽい顔をした。



「ユーゴさん、少し息を止めててください。姉さん、そんなに私に誘惑されたいですか?」

「魔力なしでいじられるのが不服!」



でもその顔で誘惑されたいですか?とか言われたら、はい!って元気よく返事したくなる。


マスクを下ろして私に向き合うイアンはいつも通りすごく綺麗だ。そのまま顔を近付けてイアンが耳元で囁く。

近付いてきたイアンは私と同じ連泊の任務帰りなのに何故かいい匂いがする。顔だけじゃなくて匂いも美人なのか、抜かりないな。



「このままずっと。私と永い時を過ごしませんか?」



プロポーズか!危な!クラっとするわ!そんないい声を使って耳元で美人に囁かれたらほいほいされちゃう。



「元からその予定でしょ?ねえ、イアン?」



私ばかりやられているのは癪だ。イアンにそう言い返すと、身体を離してイアンが耳まで赤くして恥ずかしがっていた。


勝った!アイムウィナー!


腕を上げてガッツポーズをする私と羞恥に悶えるイアンの光景はシュールに違いない。

その様子をユーゴさんは半眼で見ている。なんでイアンは鼻をつまむように言ったんだろう?



「びっくりするぐらい効いてないですね。これだけ至近距離で魔力も匂いも使って誘惑して、逆にイアンさんがやられてるとは…カコさんはホント規格外です。対象ではない、私ですら魔力だけで跪きそうなのに」



勝ったのは私なのに墓穴掘った気がする。勝ったはずなのに……妙な敗北感を味わうこととなった。



「魅惑のフェロモンで使うのは、視覚嗅覚聴覚、加えて魔力です。姉さんの場合、視覚聴覚は私に慣れているのでそこまで効果がなく、嗅覚は恐らくいい匂いぐらいの認識でしょう。

姉さんは魔力がないことに加えて魔力を感知する体組織がないから私の魔力にかかりません」



私と違ってイアンは常に色々なことに気がついて生活しているみたいだ。

絶対零度さえなければ引っ張りだこだろう。現に絶対零度があってもユーゴさんはイアンを頼りにしている。



「私のパーティメンバーだから!」



そう言ってユーゴさんにあげないよ!とイアンの手を握りしめるとイアンがまたしゃがんで悶えていた。

人から好意を向けられるのに慣れていないのか、それとも私からそう言われるのが嫌なのか。


前者であることを祈る。



「大丈夫です。私は安全な内勤です」



キッパリと言い切るとユーゴさんは私たちに休養を取るように言って、出ていった。これから書類を作って、ギルド長に報告して…


内勤の方が絶対に大変だと思う。


火山の懐でひびの入った武器たちを交換してもらって、お弁当屋さんでご飯を買って帰った。

やっぱり美味しいご飯とふかふかのお布団大事だよね!

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