第34話 夢と現
自分の息を飲む声で跳ね起きた。なにか嫌な夢を見ていた気がする。起こしてないか不安になり見やると、少し離れたところでイアンは眠っている。今日は近くにいると危ない気がするからとイアンが自分から離れたところに寝袋を引いていた。それが良かったみたいだ。
別に暑くないにも関わらず不愉快なぐらい汗をかいている。なんか鬼気迫る夢だった気がする。
1回怪我をしただけで精神的にダメージくらい過ぎでしょ。
助けられなかった魔法使いの女性に何もできないだけでなく泣くことすらできないのに、自分やイアンのことばかり考えてしまう。私はかなり薄情者だ。
「ふう」
風に当たろうと思って小屋から出ると、空は驚くぐらい星が美しかった。子どもが適当に撒いたラメやビーズのように一面に星が輝いている。星の色もピンクや緑もあり、華やかな空だ。
星座は一つも知らないが、空を見てそれにため息をつけるぐらいには美しかった。
背後から足音がして、布が私の肩にかけられた。
「イアン、ごめん、起こした?」
「いなくならないでください」
「いなくならないよ。私は1人じゃ何もできない。正直なところドアの位置すらよくわからない」
「どうやって布団まで戻るつもりだったんですか」
街灯もない真っ暗闇のため小屋を出るにも手探り状態だった。今、魔物がやってきていたら物理的に触れられるまで私は気付かない気がする。
布越しに温かい人の体温が触れている。くすぐったい髪の毛が首に触れていることからイアンがすぐ背後にいる、と思う。
「姉さん、今日のは姉さんのせいではありません」
「え?」
「今日、怪我をしたのにすぐに次の魔物を倒しに行くと言った姉さんはいつもの慎重さがなかった。間に合わなかったと思ったから次を急いだのでしょう?」
「……どちらかというと、いたたまれなかった。何もできないから」
「優しい人です、本当に。魔物に殺される人なんてたくさんいるのに、あなたはそれに心を痛める。私は見ても、実力を測りかねた。用心が足りなかったと思ってしまう」
横を見ると目を赤く光らせるイアンがいた。魔物がいないか辺りを見渡してくれている。見る限り、イアンの夜も目が効くというのは猫と同じような原理らしい。真っ白な頬が星の光を反射して白く見える。
「イアンも優しいよ。凄く怒ってたじゃん」
「ただ優しいだけでは救えないです」
「強くなるしかないね」
「とりあえずは目の前のことを1つずつやりましょう。ほら、寝ましょう、怪我が治りませんよ」
翌日予定通り10ヶ所のクマガースを倒して、一旦ギルドに戻った。
ギルドに入る直前でいきなり斬りかかられた。狙いは私ではなくイアン、襲撃者の剣を遠慮なくへし折って、本体は蹴り飛ばした。そのまま次の攻撃に移ろうとしたところで、ユーゴさんに止められた。
「カコ!殺すな!!」
片手剣を頭に落とす予定を変更して左手に落としておいた。飛びかかってきたとき、彼は両手で剣を握っていた。両手で剣を握るなら軸手は左手、左手さえ斬っておけばこちらに害を及ぼさない。
と、思ったら右手で魔方陣を描き出した。よくわからないから魔方陣に蹴りを決めたらついでに指も折った気がする。光り始めていた魔方陣はそのまま消えた。魔法って物理的に止められるんだ、知らなかったわ。
「で?殺さないようにしてみたよ」
「別のギルドからきた増援だった」
「だって、私の大事な弟に斬りかかってきたよ?躾がなってないんじゃない?」
増援ということは、会社に置き直せば出張できているのと同じ。その相手方の会社の代表として来ている。その会社は主張先の社員を殺せと言っているのか?ということになる。躾は大事だ、むしろなってないやつを出してくる大元が悪い。
「こんなガキが」
「ガキだからなあに?あなたのボスは出先のギルドでギルド員を殺してこいって言ったの?」
心からの軽蔑を向けて呆れたため息をついた。ユーゴさんの背後から出てくる見覚えのない何人かがきっとこの男のパーティメンバーだろう。
それらを全部無視してイアンの元に戻った。
上から下までまじまじと見てみるがいつものように隠しきれていない見目麗しさぐらいしかわからない。特に怪我はなさそうだ。
クレスニクのオリバーさんが回復魔法をかけている。その横でジャックがよくやったと言わんばかりのニヤニヤ笑いを堪えられていない。
どうやらこっちでも問題は起きていたみたいだ。
「姉さん、怪我は?」
「ないよ、イアンは?」
「ないですね」
「よし、はい、ユーゴさん。終わったよ。クマガースは依頼より7体多かったし、ついでに倒してこいって言ってたゴブリンたちも予定より多かったよ」
カードを受け取りながらいつも通り、ユーゴさんは深いため息をついた。よくわからないが、新しい体制でもきっと苦労しているのだろう。
そしてたった今それを増やしたに違いない。でも大人しく死んでやるわけにもイアンを傷付けさせるわけにいかない。
「うまくいかないね」
「誰のせいですか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます