第29話 大切な人

見る度に隈が酷くなっている。目の疲れが取れる私特製の小豆アイマスクをユーゴさんに差し入れとして手渡した。ユーゴさんなら自前で温めて使えるだろう。

この間イアンにもあげたらイアンがやってた。私が地道に囲炉裏で温めていた横で一瞬だった。やっぱり魔法使いたい。



「変わったマスクですね」

「目の疲れに効く目につけるマスクで、昔は私もよくお世話になった、よく効くよ」

「見た目通りの年齢でないことは察していましたが…まあレディなので年齢は不問にしておきましょう」

「ふふん、気づいてもらえて嬉しいよ」

「見た目通りの年齢でスキル持ちであること自体が異常ですからね」



うっかり前世の話をしてしまったが、デミヒューマンのスキル持ちでこのギルドに現れた私が普通の人間と同じ見た目通りの年齢でない確認をされるに留まった。デミでなかったら危なかった。


嘘ついたのか!とシモンたちに詰問されたら辛いかもしれないが、よくわかんないけどあのマスクだけを覚えてて欲しくなったと言い訳してお終いだ。既に低い私の評価で、あれ以上下がるのは早々ない。


ふと、よく考えたら私はイアンの話を聞いているのに私はイアンに身の上話をしていないことに気がついた。たった1人の大事な仲間だから、どこかできちんと話しておきたい。



「さて、すみませんが失礼を承知で確認させてください。イアンさん、あなたはカードを保持する意志がありますか?」



ユーゴさんの問いかけはよく分からなかった。普通私にも聞くもんじゃない?魔力なしの時点で他にいけないと見越している発言だろうか。


ちょっと不満に思いながらも、とりあえず話の中心のイアンを見やると私と目が合った。



「私はカコが望んでくれるなら、共に戦いたいと考えてます」

「恐らく貴方の同族は向こう側ですが、本当によろしいですね?」

「私はいい。同族になんてここ100年は会っていない、ただ…」



そういうことか!吸血鬼は魔族の一員なのか。知らなかったな、それにまさかの100年あってない?イアン、君の年齢いくつなの?その間、ずっと1人で流浪してたの?


それは確かに私に手を握られて泣くかもしれない。そんなに長い途方もない時間を彼が孤独で過ごしているなんて思いもしなかった。



「カコ、魔族の私とまだパーティを組んでくれる?」



泣く寸前であると目だけは大いに主張しているにも関わらず、声音は感情を押し殺していた。こういうことに慣れていると、諦めの空気も若干ある。

美しいって反則だ。目に涙を堪えながらこちらを窺いみるイアンの顔を見てしまったら、敵だって意見を翻しそうだ。


私はそもそも魔王たちと戦うことになるギルドにソロでいるのは自殺行為だと理解している、さらに折角見つけた私の唯一のパーティメンバーを逃せるほど私は甘くない。



「イアン、イアンは私の唯一の大切なパーティメンバーじゃないの?誰にも、魔王にだって譲らないから」



顔も知らない人にイアンをお嫁に出さないんだから!と息巻くと一瞬止まった空気がなんだか生暖かく動き出した。


イアンは一気に顔色を明るくして私の手を握りしめた。手袋をしているからその質感はわからないが、温かさは伝わってきた。



「姉さん、一緒に頑張ろう!」

「もちろん!イアンを生贄になんて絶対させないから!」

「ありがとう。私は絶対に姉さんより後に死なない」



イアンの凄まじい決意を聞いたような気がするが、途中で遮られたために真偽を確かめられなかった。聞き間違えであってほしい。



「2人がギルドに残ってくださって助かりました。仕事が山積みですから」



ユーゴさんはそういうと山積みの書類から赤の付箋が貼られているものをピックアップして私たちに手渡してきた。



「大至急、ですよ」



ユーゴさんは目の下にある隈のせいでより凄みを増した笑顔で私たちに次の任務を言い渡した。

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