第30話 まともな上司

若干血走っている目で黙々と作業するユーゴさんに、赤付箋のついた書類全ての任務をカードに登録された。全て終わるまで帰ってくるなってことですか?それ何日分なのよと聞きたいような聞きたくないような。

渡された書類で内容を読むと、いつも通りの魔物〇体討伐が多い。加えて急遽出現した謎の魔物、さきほどの話を聞く限り、魔物目線だと上司が本腰入れてきたから辺境の支店も残業してやる気を見せなきゃといったところか。


すっごい迷惑。


他に存在は確認されてたものの無害だから放置してた大型の魔物が動き出したという報告の数々。村が放棄された例も多くある。数日で起きたわけではなく、前から来てたけど後回しにしてた類な気がする。

先日貰った剣で足りるだろうか、鍛冶見習いだってそんな何人もいるわけじゃないからそろそろ練習の剣もなくなるのではないかと変な不安が過ぎる。



「ユーゴさんも任務にでたら早いような…」

「ここの守りと書類業務、街の結界の問題があります。代わりを誰か務めてくれるなら健康的にドラゴン倒しに行きたいところです」

「ドラゴン退治って健康的なの?」

「ここよりかは」



ギルドの守備と街の結界張ってたらそりゃダメだね。というか、街の結界もなんだ。過労にもなるし、ドラゴン退治が比較的健康になるわ。


普段自分からは絶対に触れてこないイアンが急に私の肩を掴み、私の身体を引いた。咄嗟のことで反応できずイアンの引いたとおりに私は動いた。イアンがドアと私の間に割って入った形だ。



「カコさま、イアンさまはこちらにいらっしゃるのか?」



私の名前が聞けたぐらいでドアが開いた。ドアの向こうにいたのはイメージしやすい西洋人、金髪碧眼の少年の域をできらない年傘の人だった。艶のある生地で作られている制服のようなものに身を包んで、腰には見覚えのある銀色のレイピア。


たぶん、拾っちゃった子だろう。



「レディがいる部屋は返事があってから開けてほしいところですね。改めて、はじめましてカコです。こちらはパーティメンバーのイアン」

「そうだな、すまぬ、配慮が足りなかった。そなたらが助けてくれたとマリカから聞いたのだ」

「お気になさらず。ギルドの仲間かと思ってただけなので」

「今の私では功労に報いることができぬのが恥ずかしいところだが、礼はいいたいのだ。助かった、ありがとう」



意外とこの子は懐が大きいらしい。そして律儀な人だな。それとも年下に見える私に対してはこの年頃のときは自分も生意気だったからなあみたいな回想だろうか。


それにこの部屋に入るのに躊躇いがなかった。イアンがいるから彼もユーゴさんも言う寒さを感じているはずなのに。まともな上司そうで良かった。



「殿下、ギルド内も今は混乱しております。シモンとマリカはどうしました?」



ユーゴさんにとっては仕事が増えたみたいなもんだ。この王子様の護衛はシモンとマリカか。仰々しいジャックたちみたいなのはつけてたら明らか過ぎる。それにランク3の彼らにはこの山のような仕事が割り振られているだろう。


そうなるとランク2に上がってギルド長からの信頼も肝いりな2人は護衛に丁度良かったのだろう。魔王討伐の旗頭を任されてるなんてシモンたち頑張ってるな。

ユーゴさんに出発していいと言われ、彼らがギルド奥の医務室がある方向に歩いていってからイアンと出発することにした。


街道沿いの村から来ている大型魔物討伐、ついでに小物討伐から手をつけることにした。

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