第28話 立ち込める暗雲
3日働いて2日休むぐらいの頻度でのんびり働こうと思っていたが、現実は難しい。なんで仕事がそんなにたくさんやって来てしまうのだろう。
信じてもいない神さまに対して「おお、神よ」だなんて言いたくなるぐらいだ。
この世界にももちろん宗教があって、一番力があるのがアステリア神を仰ぐ教会と呼ばれる宗教だ。この街にも一応教会があるのだが、今のところまだ見学に行ったことがない。
この街の人は、え?神様?ああ、教会のこと?ぐらいの認識である。神さま神さまと言っていればお祭りをやってよくて、市も臨時で開くことができて、なんて便利ぐらいにしか思ってない。
「ラディウスの兄王子が王を殺して、国を握ったらしい」
ギルドに着くなり駆け寄ってきたシモンが私にそう教えてくれた。待て待て、いつものごとく私が置いていかれているよ。
ラディウスというのはこの間拾った人の名前だ。ラディウスの兄王子、ということはラディウスも王子か。
危な!王子さま適当なところで行き倒れてたら危ないでしょ。
それで、ラディウスの兄王子が王様になったってこと?倫理的にはアウトかもしれないけど、私たち一般庶民ができることなんてほとんどないでしょ。
「それが、どうかしたの?」
「……さすが、カコだな」
シモンが引きつった笑みを浮かべた。周りにいた他の冒険者も思いっきり引いている。受付のシオリさんはゴミでも見るかのような目でこちらを見ている。そんな目で見られても嬉しくない。
「私たちに何か関係してくるの?雲の上の人のことなんて、やいやい言えないでしょ?」
「カコが言うように、確かに私たちは道端に倒れている人を保護したがその後王国に対抗してまで彼をかばう必要は無い。深刻に捉えなくてもいいと、私も思う」
イアンが言葉足らずな私の言葉を補ってくれた。考えている途中過程を何も言わないから問題が起こるの!とよく母親に怒られていた覚えがある。反省します。
周りを見渡せばいつもの倍以上いる冒険者たちに気がついた。明らかにお初にお目にかかりますの人たちも多い、冒険者たちは自分が動きやすい時間にやってくるから、朝が混雑しやすいとはいえ夜型の冒険者もいて、つまり普通ならこんな人数集まらない。一体何があったというのだろうか。
「注目」
手を叩いて自分勝手に動き回る冒険者たちの動きを止めた。言葉の方を見やればユーゴさんとギルド長がいた。この集まりは招集がかかったからか。
「急に集まってもらったのは他でもない。本部ギルドの決定を伝えるためだ。結論から言おう、冒険者ギルドは弟王子ラディウス殿下を支持することとなった」
「理由を聞いてもいいのか?」
今日も大型の火の模様が揺らめく剣をもつジャックがギルド長に質問を投げかけた。
「今回王座を奪った兄のレオナルド王子だが、魔王と通じている。本人もそれを宣言して王座についた。魔物に対する殺生を控え、一定レベル以上の魔法使いを王都まで連れてくるよう命令を出している。加えてドラゴンスレイヤーを名乗ることの出来るパーティに所属する魔法使いもだ。ギルドの該当者は100人を越える、その集めた魔法使いたちを生贄になにかを召喚するつもりらしい」
なるほど、ギルドとしてもある一定レベル以上の魔法使いを100人も奪われたら活動していけない。パーティの後方支援火力の8割以上が魔法使いで、高ランクになればなるほど魔法使いなしで活動するのは難しい。なにより魔物を倒してはいけない制限が冒険者ギルドを離反に踏み切らせている。
魔物を倒さなければ安全を守ることができない、アイテム収入がなくなったら生活も立ち行かない。
王子と通じて国を取ったにも関わらずやり方が甘い、もっと狡猾にやっていかないと。どんなに軍を配下に置いても次に戦力を持つ冒険者ギルドを敵に回したらダメでしょ。
見たこともない魔王にダメ出しをして大きなため息をついた。間違いなくその100人に含まれているイアンの手を握った。私のたった1人のパーティメンバーを殺してたまるか。
「魔法使いの話は序の口だろう。これからどんどん人が奪われ、殺されていく。魔族にとって我々は住みやすい土地を占領している邪魔者に過ぎない。生き残るために、冒険者ギルドは離反を宣言した。だが、それに不服の者もいるだろう。ギルドの中には魔族の者も一部いるからな。カードの返納を本日に限り受け付ける。以上だ」
それは、偶然あの王子を拾った私たちは責任重大になるわ。イアンを見やると俯いて虚空を見ていた。
「カコさん、イアンさん、昨日のことでお話があります」
ユーゴさんとお話してばかりだ。ヤダなんて言えるわけもなく大人しくいつも通りの会議室に入った。
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