第27話 拾い者
「イアン、あれ見える?」
「残念ながら」
きちんと見えているらしい。とても残念だが私の目の錯覚ではなかった。
市場でちょっとしたお使いを頼まれて街の外に出て戻るときだった。私の指は街に繋がる大きめな街道の路肩を示している。
イアンはそのときのことを思い出したのか、ちょっと恥ずかしがった。悪戯心が湧いてきて、もう少し揶揄うことにしてみた。
「私、あれ見覚えあるんだわ」
「すみません、私には身に覚えがありますね」
目元と耳まで赤くして恥ずかしがっているイアンの見物も楽しかったが、それを楽しんで放置しておくわけにいかない案件だった。
イアンと見つけてしまったのはカエルのように潰れている行き倒れた人間だった。ステータスをのぞき見すると「ラディウス(ヒューマン) Lv8」、珍しく普通の人を見つけた。
黄土色に近い茶色のマントを羽織っている彼はそれはもう、綺麗にべっちゃりと地面と仲良くしている。前後左右見渡してみるが、彼の連れらしい人は見当たらない。
「放置はまずいよね」
「あのままだと魔物に襲われて死にます」
「ギルドまで連れて帰ろっか」
恐らく連れもなく道で生き倒れているなら冒険者だろうと判断してギルドまで連れて行ってあげることにした。腰にある細身の剣は銀製で銘が打ってある。すごい高いやつに違いない。これだけの差料を買えるのに街に近いところで行き倒れているのはとても不思議だ。
レベルもそんなに高くないことを考えると、単価の低い任務を回数請け負って買った武器のはずだ。それなら彼は冒険者としてベテランの域に達していておかしくない。
もしくはお金持ちの息子。後者の方が有り得そう。ただお供の人が一切いないあたり、事件性を感じる。
もっともレベルが高くお金もあるのに街中の大通りで行き倒れてた数奇な前例が隣にいるから何事も有り得ることを学んでいる。
担ぎ上げてから顔をのぞき込んでちょっと安心した。髪が金髪なだけでこの人の顔は普通だ。出会う人が美形ばからだから私がダメな顔なのかと思ってた。この人は私の仲間で、可もなく不可もなくぐらいだ。
勝手に安心感を抱きながらその少年を抱えてギルドに戻り、どんどん隈が酷くなっているユーゴさんに少年を引き渡した。
「カコ、人拾ったの?」
「街道に倒れてて放置してくるわけいかないから」
「普通拾わない。まず人が落ちてない」
「今日はお兄さまとゆっくりの予定でしたのに」
不服そうだがシモンとマリカが面倒を見てくれるらしかった。マリカは薬草士、まだ見習いみたいだが、看病をしてくれるらしい。
生き倒れて起きたらこれだけ綺麗な美少女が看病してくれているとか、きっと彼も行き倒れた甲斐があっただろう。
どうでもいい余計なことを考えながらギルドを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます