第16話 褒めて伸ばしてください

討伐適正レベル20のぷよぷよジェネラル、討伐適正レベル35のゴブリンジェネラルを倒したことで激しくレベルが上がっていた。未だに頭の中でレベルアップの音がなっている。

ステータスを見ようとしたら数字がぐるぐる回っていて目に悪かったために、音が鳴り止むまで放置している。でもMPは頑として動いてなかった0のままだ、悲しい。


ギルドに戻るなりいつもの事務員の性格に戻ったユーゴさんはすぐに書類に埋れていった。ゴブリンジェネラルに怯まず2人で倒すのに余裕があったことを考えるとユーゴさんのレベルはすごく高いのだろう。のぞき見すらできなかった。

ため息をついて木の椅子に座ると、私の目の前に人影が立った。



「これをお飲みなさい!」



なんか変な趣味に目覚めそう。腰に手を当てて私を見下ろしながら高飛車に言ってのける美少女、マリカを見上げた。

マリカの手には青汁が可愛く見えるぐらいの飲み物があった、粘性のある青緑色の液体は飲んだ瞬間に大変なことになることはお墨付きだ。


せめて飲むなら同時に水をください。そう思って右左見渡していたら無言でシモンから水を渡された。逃げられない上にシモンですら思ってることが判明した。



「あ、ありがとう」

「一人でアレに立ち向かうなんて、わたくしたちをもっと頼っていただいてよかったのに!」



貰ったマグはひんやりして火照った私の手にはちょうどいい温度だった。なんだろう、この双子、どちらかがツンデレしてないとダメな呪いにでも掛かってるのだろうか。


でも、私の心配をしてくれていたんだ。


シモンもマリカも、会ったばかりのジャックも私のことを心配してくれていた。受付で出会っただけのユーゴさんすら私を助けにきてくれて、そして褒めてくれた。

前は死ぬまで働いても誰も褒めてくれなかったのに。転生できて良かった。



「な、なんで泣くんですの?!」

「生きてるな、と思って」



そして手元にある冷たい飲み物を一息で飲んでみて、そのまま世界が回った。慌てるマリカが飛びついてくるのが見えた気がした。




ぼんやりと音を聞いていた。水の流れる音が聞こえる、わずかな衣摺れの音も、人の話し声も聞こえた。聞き覚えのある声の人が近くに来て、寝たふりをしていたのは一瞬でバレた。



「…目が覚めたんですね」



私の渾身の寝たふりを無視してユーゴさんは話しかけて来た。さすが仕事人、ブレない。過労死しないか不安だ。諦めて目を閉じたまま返事をした。



「病床のレディ見舞うのにユーゴさん一人ですか?」

「生憎、他の人は寝てます。先ほどまでマリカさんが看病していたんですけどね」



諦めて目を開けて、ユーゴさんが手渡してくれた水を飲むと口の中に残っていた青臭い青汁みたいな臭いが薄れた。案の定、あれは苦かった。

服はいつのまにか綺麗になっている。マリカが変えてくれたのだろう。ミカリンのセンスでこの間購入した白を基調に赤のアクセントが入ったデザインは青の服と同じものだ。鍵のつくケースに入れてなくて良かった。


でも冷静に考えればマリカ特製青汁は倒れるほどには不味くなかったはずだ。いや、食べ物で卒倒するのは毒が盛られているとか出ない限り、普通はない。

聞こうと思った相手、ユーゴさんは誰かを呼びに行くと言って出て行ってしまった。窓の外は日が傾いている昼間ずっと寝てたみたいだ。


そういえばレベルアップの音が消えてる。



『名前 カコ 種族 デミヒューマン

 Lv.32 疲労

 HP:306   MP:0

 力 :320   魔力:0

 物理防御:82 魔法防御:42

 すばやさ:92 幸運  :17

 スキル : 投槍術lv7 のぞき見 lv8

 個性  : 物理的解決 

投てきの熟練者 剣の熟練者 打撃の使い手

 称号  : 仕事を増やさない仕事人見習い

       みんなに感謝できるひと

文化的最低限度の探求者

将軍と縁ある人(new)▽』


『剣術スキルが限界レベルになったため、個性剣の熟練者を習得。大剣術、片手剣術、長刀術、刀術、レイピア術のスキルが習得可能になりました。

打撃スキルが限界レベルになったため、打撃の使い手を習得。拳術、蹴術、柔術のスキルが習得可能になりました』



「ずいぶん上がったな」



物理的なものだけ爆上がりしている。なんでこんなにレベルが上がったのに魔力は頑なに0から動かないんだろう。1ぐらい上げてくれたっていいのに。

おかげさまで剣は二本とも壊したし、槍も曲がりまくっていた。レベルが上がって力が上がるのに武器は鍛治職人見習いの練習では、それは壊れるだろう。武器だって泣きたいに違いない、そんな使われ方すると思ってない。



「片手剣、刀術、蹴術を習得」



スキルの習得が終わったところで、ユーゴさんが背の高い男性とシモンを連れて入ってきた。初見の男性は筋肉が無駄なくついていて、淡く輝く剣と盾を背負っている。


なんとなく想像ついたかもしれない。



「はじめまして、カコです」



相手が想像通りならこちらが格下のはずと思って立ち上がり礼をしたが、無理せずベッドに横になるよう指示された。

ユーゴさんが椅子をどこからか持ってきて3つ並べる。話が長くなるみたいだ。


諦めてベッドに戻って彼らと向き合うと、真ん中に座った男性が口火を切った。



「ギルド長、アドルフだ。今回は無理させて悪かったな」



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