第17話 目指せ!スローライフ
シモンは憧れと尊敬の眼差しを懸命に向けている。それでも距離感は近い、となると先輩冒険者というよりは噂に聞く養父のギルド長だと想像していた。
予想はもっとごっついイメージだった。イメージはガタイがジャックで、鍛冶屋の店主みたいなひげもじゃだった。
だが目の前にいるギルド長は背は高いものの細身で、髪は短く切りそろえてあり、髭はない。
「今回はいい仕事ぶりだった。先日も息子のシモンを助けてくれたと聞く。ありがとう。今回の件の報酬はユーゴからあとで受け取るといい。アイテム等もユーゴが処置して換金してある」
それは辺りに尽せり、ユーゴさんに足向けて寝られないわ。ちらりとユーゴさんを見るが、どこを見ているかよくわからない淀んだ目で虚空を見ていた。
あの時の中二病大発揮の最中はあんなに強かったのに、今はモンスターでたら無視をしそうだ。下手したら泣き喚くモンスターに煩いですよとか注意をしかねない。
「本来はランクを上げる際にもっと時間がかかるのだが、君がランク1だと仕事効率が悪いとユーゴから進言があってね。勝手で悪いがステータスを見させてもらった、私もそう思う。
さて、これが君の新しい冒険者カードだ」
ギルド長から渡されたカードを手に取ってみると、これまでのカードとは異なる加工がされていた。石の上に保護用の何かが埋められてる。
そんなに私はカードの石を割りそうに見えるのか、そんなに事務方の人の作業増やしたりしないよ。
ちょっと半眼になって文字を見ると
「カコ(デミヒューマン) ランク3 ソロ」
と書いてあった。
ランク3にいきなりなってしまうのも驚きの上に、勝手にぼっち認定されていることに衝撃を受けた。まだ冒険者はじめて3日、固定のパーティで活動してなくても仕方なくない!?なんで、いきなりぼっち認定するの。
「不服そうだな」
思えば私は別に異世界で過労死しなければいいだけで冒険として大成する必要は全くない。とりあえず身元不明の怪しい人物より、冒険者名乗った方が都合がいいから今は冒険者なだけだ。
隙あらば農民になりたい、スローライフしたい。
「私の夢は、安全なとこでトマトを育てつつ小さな小屋で生活することなのでランク3はちょっと…」
「そうか、ランク3になれば報酬が1に比べて断然高い。その分難易度も高いが君ならこなすことができるだろう。難易度の分、もちろん報酬も高い。家を買うための蓄えにするといい」
「そうですね」
世知辛いことにこの世界も家を買うのに金がいる。私は生産系のスキルが全くなかった。誰かにお願いしなければいけない。それに安全なところは魔物が出ないという意味で、この護られてる狭い街の中でスローライフする場所を見つけるのは至難の技だ。それはお金がいくらあっても足りないに違いない。
安全に過ごすの難しい。難易度そんなに高いなんて…。
「問題ないようだな、ではユーゴあとは頼んだぞ」
「お任せください」
ギルド長はマントを翻して部屋を出て行った。それにシモンも続いた。残ったのはバインダーと革の袋をもつユーゴさんと私だけだ。
なんだか上手いこと言いくるめられた気がする。
「なんか上手いこと言いくるめられた気がする」
「気がつけたようでなによりです、それではこちらが今回の報酬です。金貨40枚、こちらがアイテムを換金したものです。金貨60枚です」
「え?」
「今回のぷよぷよジェネラル、ゴブリンジェネラルはどちらも街とギルドから特別報酬金が払われます。
普段はギルドだけですが、防衛戦は街の存亡もかかってますからね。アイテムは全て売り払っているとお聞きしましたので全て換金してあります、どちらのジェネラルも金貨10枚以上になる大物ですから。加えてぷよぷよプリンスの王冠はマニア受けがよく、倒し方が綺麗でアイテムに損傷がなかったために金貨15枚になりました。
その他のアイテムは東門の守衛のみなさんと山分けしましたが、今回はかなり多かったですね」
怒涛のように話される事後処置の説明に置いていかれそうになった。正しくは置いていかれてる。
スーツを着て、メガネを押し上げるユーゴさんは目が死んでるだけのよくできる事務員さんだ。でもあの魔法は明らかに非戦闘員じゃなかった。
「質問はありますか?」
「ユーゴさんはレベルいくつですか?」
「説明した事柄とかなり違いますが…。はあ、私はレベル52の火の魔法使い《ファイアウィザード》です。冒険者ランク3のソロ、あなたと一緒です。ある任務の報酬で、ギルドのできる範囲でなんでも要求していいというのがあり、安全な内勤を希望して事務員をしています。これでいいですか?」
安全な内勤がゴブリンジェネラルに炎を浴びせかけたりする仕事になるなんて、この世界は怖すぎる。なんで私はあんなに安全でご飯の美味しい日本でうっかり過労死したんだろう。そんなことしなければこんなことにならなかったのに…
「安全って難しいですね」
「本当に心からそう思います」
なんだかユーゴさんとは仲良くなれそうな気がした。
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