第15話 戦う新人

早いところあの新人ルーキーの元に行かなければいけない。焦る気持ちとは裏腹にやらなければいけない仕事は私の足に絡みついて離さない。

先ほど入った『ぷよぷよジェネラル』との交戦はまだ彼女には早い、現に今連絡が途絶えている。

クレスニクのリーダーが必死にカコに呼びかけているが、返答がない。


私の判断ミスだったとは思わない。


彼女でなければ門を一つ預けることは不可能だったと思っている、他のランク2のパーティではその前にきっと全滅していた。

ただ、まさかあの森から今回の魔物のボスが出てくるとは思わなかった。悔しさに唇を噛み締めても何も変わらない。やらなければいけないことは冷静に処理しなければいけない。


恐怖できちんと仕事ができていない他の事務員をみやっても、もう私が現場に向かわない理由はないように思えた。ここの指揮所よりも重要な前線がある。


ボスであるアドルフさんを見ると微笑んで返してくれた。私の意志を尊重してくれるらしい。



「ボス、東門に行きます」

「あぁ、気をつけろよ」

「業火の番人、ユーゴ。東門から出る」



救援に向かいたいと叫んでいたクレスニクから僅かな沈黙と了解の返事がきた。


人に合わせてパーティを組むのが苦手であり、安全な生活を求めてる私は冒険者としてランク3でありながら普段はギルド事務員として働いている。

ランク3以上のソロはパーティ名の代わりに2つ名を与えられる。私の2つ名は業火の番人だ。火の魔法使い《ファイアウィザード》としては光栄な限りだ。


城門の上、冒険者たちが飛んでくるダークバードたちを射落とし、ぷよぷよジェネラルと対峙するカコに襲いかかろうとする他の魔物を倒していた。


それを指揮しているのは新米冒険者のシモンだが、うまくまとめている。彼は前の防衛戦のときは街中の防衛にあたっていた、それがいい経験になっているみたいだ。

先日のゴブリンリーダーとの戦いでレベルも大きく上がっているため、力に不足もない。



「ユーゴ!」

「シモンさん、マリカさん、大丈夫です。私がいきます」

「いや、あいつ、1人で倒した!」



城門から下を見るとぷよぷよジェネラルが塵に戻るところだった。カコさんは1もHPが減っていない。


化け物か。


討伐適正レベルは4人以上のパーティでの目安だ。ぷよぷよジェネラルは20が適正レベル、カコさんは19だ。

そもそもソロで倒すなら適正レベルの倍以上のレベルが欲しいところだが、あの新人ルーキーのカコさんは魔法も使えないのに自分より適正レベルの高い魔物を無傷で倒している。


上からは見えるがまだカコさんには見えていないのだろう。森にあり得ない数のゴブリンが集まっている。

今回の魔物のボスはぷよぷよジェネラルではなくゴブリンジェネラルみたいだ。両方引くなんて彼女は相当何かを持ってる。



「東門、ぷよぷよジェネラル撃破。…東門、ゴブリンジェネラルおよびゴブリンリーダーを多数確認。迎撃を始めます」



どうやらゴブリンにも気がついたらしい。カコさんは淡々と通信に報告を入れて、地面に刺さっていた槍を引き抜いて構えた。


この数にも怯まないところは流石ですね。


心の中でそう褒めてから、何羽かのダークバードをクッション代わりにして城門から飛び降りた。



「女神の嫉妬メガイラの炎



地上に向けて魔法陣を展開した。魔力を流し込めば輝いて、その魔法が発動する。

向かってくるゴブリンの群れは一気に灰燼に帰した、雑魚を焼くのにオーバースペックではあるが取り逃がしの方がめんどくさい。


何か言いたそうにしながらも、何も言わないカコさんとともにゴブリンジェネラルを撃破し、今回の防衛戦は幕を引いた。



「よ、今回は大活躍だったじゃないか、業火の番人」



書類の山に埋もれていると軽い声音でクレスニクのリーダーであるジャックが話しかけてきた。軽い声音だが、彼は私に無駄な話をしにこない人だ。



「いえ、ほとんどカコさんが倒していました。ジャックさんもお疲れ様でした」

「だろうな。あいつはレベルの割に攻撃力か高過ぎる。あれだと、自分の実力以上の相手を倒せてちょっと危ないな」

「しかし、それに胡座をかくタイプでもないです。見てるこちらが戸惑うぐらい、怖がりますね」



ジャックさんが持ってきた話はカコさんのことだった。意外とジャックさんはカコさんのことを気にしているらしい。


カコさんは、魔物とあれだけのレベル差がありながら無傷で倒してくる。ということは、それだけ魔物を怖がっていることに他ならない。

だから私は他のランク2のパーティではなくカコさんを城門の外の防衛戦を任せた。



「きちんとあいつを褒めてやれよ。痛々しいぐらい自分に価値を見てない、まるで」



奴隷みたいだと。


よくできる新人として全く思い上がっていないどころか、誰かの命令に唯々諾々と従って怖がりながら無理をする様子はクレスニクのジャックがいうように奴隷と同じ反応だ。


ギルド長が拾ってきたばかりのシモンとマリカはまだ何をしてあげたらいいかまだわかりやすかった。彼らの怪我を癒して、私たちはあなたたち2人を叩かないし、あなたたちは自由なんですよ、と根気よく教えるのが対処法としてわかっていた。


カコさんは見た目は子供であるものの大人のように笑って濁すことができる。

ある程度以上は人が踏み込んでこないように、それでもある程度までは受け入れて対応するからタチが悪い。それ以上を踏み込めなくなる。



「カコは記憶がないんじゃないだろうな。話したくないんだろう。俺は冒険者同士だから聞かねえし、その上での付き合いになるが。ま、頑張ってくれ」

「まだ人身売買組織が残っているんですかね。調べないと。そして彼女にかかっている魔力封じをとく必要があります…仕事が増えそうですね」

「任務で出してくれるなら片付けてくるぜ」

「頼りにしてますよ」



クレスニクのオリバーさんがやってきて「もうそろそろカコさんが目覚めますよ」と教えてくれた。



「それでは私は病室に向かいますね」

「おう!俺たちも休息とってから任務に行くかな」



クレスニクはそう言って撤収していった。私はまだこれから仕事が残っている。安全に日常を過ごすために行う仕事だ。

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