第15話 戦う事務員

このぷよぷよジェネラルの弱点はプリンスと同じ王冠だろう。なんで王子の方が小さくてジェネラルが大きいのかとかツッコミどころはたくさんあったが、それは名前をつけた人間の都合だ。


誰だ、そんなセンスない割り振りしたの!


とりあえず鉄球をぷよぷよジェネラルに投げつけるが、王冠を避けてぶよんぶよんと跳ね返された。うん、想定してた柔らかそうだもんね。

でも王冠が弱点らしいの補強にはなった。王冠にぶつかりそうな攻撃を避けてた。

でも、2トントラックサイズの魔物に技もない剣で挑むのはかなり無理がある。鉄球も残り少ない、無駄にはできない。奇妙なぶるぶる震えを起こして何をするのかと思ったら小さい普通のぷよぷよを飛ばしてきた。何が来るかわからなかったために横っ飛びで避けたら、私がいた場所にぷよぷよジェネラルがタックルかましていた。



「し、死ぬかと思った」



足が震えて、早い鼓動がやけによく聞こえた。勘弁してよ、このままだと過労死じゃなくて圧死させられそう。


死にたくない。それもまた無茶言う上司ギルドのせいで死ぬなんて絶対に嫌だ。


ぷよぷよジェネラルの戦い方を真似ることにした。

鉄球を掴んで、思いっきり投げつけた。もちろんぷよぷよジェネラルはさっきと同じように鉄球を避けたが、鉄球を投げた後、槍も投げておいた。


当たって!


祈った瞬間は数秒にも満たなかった、妙に軽快な音がしたのちに王冠が地面に落ちる音がした。王冠が真っ二つだ。急に空気が抜けたような音がして、ぷよぷよジェネラルは土に還った。

急に聞こえ始めたアクセサリーの後に気がついて報告を入れた。



「おい!カコ、返事をしろ!大丈夫なのか?!」

「…東門、ぷよぷよジェネラル撃破」



そこで通信を切りたかったのだが、妙に重い音が聞こえて森の方を振り返ると、大きなゴブリン、ゴブリンジェネラルというらしいが大きなゴブリンとゴブリンリーダーとゴブリンによる混成団がこっちを見ていた。


やめて、私食べても美味しくないよ。



「東門、ゴブリンジェネラルおよびゴブリンリーダーを多数確認。迎撃をはじめます」



投げた槍を手元に戻して戦闘態勢に入ったものの、泣きたい気分でいっぱいだった。なんでこんなのばっかりと戦わなきゃいけないんだ。さっきから音が小さいもののずっとレベルアップの音が鳴り続けている。そんなにたくさんレベルをあげるつもりはないんだけど。

人間の限界レベルは99らしいしさ、ほら、そんなに勢いよく上げても上限あるんだから。


そう思いつつも槍を構えたところで、背後から業火が降り注いだ。ゴブリンリーダーとゴブリンたちに。



「女神の嫉妬メガイラの炎



聞き覚えのある声に振り返るとすぐに怒られた。



「魔物に背を向ける人がどこにいるんですか!前を見なさい!ま・え!!」



ユーゴさん、姿だけじゃなくて性格もなんか変わってた。まあ目は死んでたけど。


洋服って凄い効果があるに違いない。普段のスーツから魔法使い《ウィザード》のローブに変わり、手にゲタゲタ笑う紅目の骸骨がついた魔法杖ロットを手にしていた。思ったより中二病こじらせてた、いや、普段の仕事の反動かもしれない。とりあえず助けられた私は何も言えないことは間違いない。



「返事は?」

「すみませんでした」

「まったく、返事をしないから心配しました」

「大変申し訳ないです」



でもここに私を投下したのは貴方だし、さっきのぷよぷよジェネラルもかなり強くてそんな余裕はまったくなかった!と言い張りたいところだがそこまで肝は据わってない。ゴブリンたちを一掃したあの魔法を見た後にそれを言える人はかなり稀だろう。


大丈夫、私はそういうので謝るのとっても慣れてる。なんだか喉が絞られて泣きたくなるような気がするけど、我慢すればなんとかなる。



「いえ、私が悪かったですね。無理させました。怪我はないようでなによりです。よく一人ソロでジェネラルを倒しましたね、パーティでも苦戦します」



褒められて涙腺が崩壊した。でも前向いてるからきっと気付かれない、と思う。そういえば私を褒めてくれる人なんて随分いなかった。

任務の許可をくれたのもユーゴさんだったことを考えるとこの人ははじめから私を認めてくれていた。



「まだいけますか?」

「はい!」



未だに燻っている火の熱で涙を乾かして、ゴブリンジェネラルに構え直した。ゴブリンはこのジェネラルやリーダーを中心に増えていくらしい。こいつがいるからゴブリンのいるはずのない森でゴブリンがいたに違いない。

なんだわざわざこんな森にこんな奴がいるんだろう。魔物にも無茶な上司がいるとしたら、このゴブリンジェネラルに命令している魔物がいる?


考えるのは後にしよう。



「火のフレイムアロー



背後から放たれた白と青の火の玉の後を追って駆け出した。ゴブリンは人間と身体の作りが似ている、頭を取るか、心臓を一突きすれば倒すことができる。

大柄な人間ぐらいのサイズのゴブリンジェネラルなら槍で倒せるはずだ。


投槍を構えて投てきしてなんとかなる距離まで駆け込んだ。


背後から白と青の火のフレイムアローと火のファイアがゴブリンジェネラルに飛んでいく。それを振り払うのに躍起なって防御が疎かだ。



「アトラトム《投槍》!」



願うのは真っ直ぐ心臓を貫く威力のある重い槍、銀色の閃光ように飛んでいった槍はゴブリンジェネラルに突き刺さった。もがいているが、致命傷にはなっていないように見える。


手元が空になり、すぐに剣を鞘から抜いてそのままゴブリンジェネラルを斬りつける距離まで走った。初撃は袈裟懸け、そのまま返刃で腕を跳ね飛ばした。刺さっている槍の石突きに蹴りを入れて、ゴブリンジェネラルから距離を取った。

上空から飛来した火の鳥が五羽、ゴブリンジェネラルに突撃をして白い炎が舞った。


手にしていた棍棒を支えに私の方に歩いてこようとして、ゴブリンジェネラルは土に還った。刺さっていた塊がなくなった投槍は地面に落ちたが、元が真っ直ぐだったとは思えないぐらい歪んで曲がっている。



「勝った?」



私の疑問に答えは返って来ず、淡々と終了の報告がされていた。でも、残っていた魔物が一目散に森に逃げていく、どうやら終わったらしい。



「東門、ゴブリンジェネラル討伐しました」

「魔物が城壁から遠ざかっていく」

「カコ、ユーゴ、よくやった。他のパーティのみんなもありがとう。残りの残党処理は休息後に行おう、ギルドまで撤収せよ」



優しくて低い声の人がアクセサリー越しに褒めてくれた。段々と白んでいく空で朝の訪れを知った、そして私は大きくため息をついた。白を基調とした服を選んだのは間違いだったかもしれない。

ゴブリンジェネラルの真っ赤な血を浴びて白だった服は元の色がわからないぐらいに色が変わっている。また出費がありそうだ。


大きなため息をついてユーゴさんの背を追った。

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