第13話 実は魔物も大変

図書館で日が暮れるまで本を読みふけったあと、火山の懐で壊れた槍と剣を変えてもらった。

宿では女将さん特製の美味しいスープと揚げた肉を堪能した、女将さん特製の肉というだけあってこれまでのちょっと物足りない味付けと変わって美味しかった。なんとなく唐揚げみたいだ。


ふかふかの布団に入って…


夜中に起こされた。よくこんな中寝てたなというぐらい宿中が騒がしい。



「冒険者に召集がかかってるわ!」

「ええ?!ありがとうございます」



夜中も呼び出せるシステムとか、冒険者は日雇い労働者だからやりたくない仕事は断れる方式かと思ってたがどうやら違うらしい。


着替えてギルドにいく道すがらに話を繋ぎ合わせると、魔物が街に向かってきているらしい。普段は街の守りが堅く、向かうだけ無駄だから街を襲わないが時々その近辺をまとめる魔物のボスが街に行け!と大号令を発するらしい。

魔物も無茶な命令を聞かなきゃいけなくて大変だ、無茶な上司を持つと苦労するよね。


そういうことが起きたときには冒険者が自警団として街を防衛することになっているらしい。あまりに規模が大きいと国軍がやってくるみたいだが、一時対処には間に合わない。


冒険者の大半がランク1とランク2、少数のランク3がいて、4.5に関しては姿が見えない。シモンがギルド長がランク5と言っていたからギルド長は5なんだろうけど、4は見当たらない。



「ランク1の冒険者はこっちよ!」


アイドル的な受付嬢シオリさんがランク1の冒険者を集めていて、向かおうとしたところランク3を集めていたユーゴさんに捕まった。



「君はこっちにきてくださいね」



ユーゴさんにギルドからの貸与です、と投槍を貸し出された。そして使い切って大丈夫ですよ、と革の袋いっぱいの鉄球らしき丸いものたち。


スキルが変化してから火山の懐に行って、店主と交渉していた。翌日に投槍仕様の魔力が通らない槍を貰うつもりだった。鉄球も鍛冶でできる副産物だから格安でくれるということだったので、まとめて廃棄品としてもらうつもりだった。


ユーゴさん、目が死んでるけどかなり有能なのかもしれない。仕事が集まりすぎて過労かも。



「さすがルーキーだな、扱いが違う」

「魔力がないから、武器たくさんないとなくなっちゃうんだよね。私も愛刀!とか言いたかった…」



朝会った赤髪の冒険者が朝と同じ大剣、夜でも火が模様とされている大剣は美しく輝いている、を持っているのが羨ましくて仕方ない。私の剣は一本既に入れ替わっている。この勢いで行くと1任務1剣で使い捨て状態だ。


彼からの嫌味がどうでもいいぐらい大剣が美しい、羨ましい、妬ましい。私も魔力が欲しい。ファンタジーな異世界に生まれてこれたのに魔力がないせいで、中世さながらの装備しかつけられない。

魔法が使えないどころか、愛刀すら持てないなんてそんな話聞いてない。武器は使い捨てで危険な場所にやってきただけだ、辛い。



「まじかよ、魔力が1もないのか?」

「1でもあれば愛刀持てたらしいね…」

「その分を物理的なスキルに振ってるのか、すごい努力だな」



羨ましい、武器が欲しい、愛刀憧れると呟いていた私に急に優しくなった赤髪の冒険者が握手を求めてきた。もしかしてツンデレのデレですか、それとも魔力が0への同情ですか。

どちらにしろ、これから戦いなら仲良くないより仲良いに越したことはない。



「俺は前衛火力を担当するジャックだ。パーティ、クレスニクのリーダーをしている。メンバーのメイ、フランク、オリバーだ」

「盾持ちのフランクだ」

「オリバーです、回復魔法使い《ヒーラー》なので怪我をしたら早めに言ってくださいね」

「雷の魔法使い《サンダーウィザード》のメイ、後方火力です…」



大きな魔法陣が描かれた大型の盾を持つフランクさんは金髪を短く刈り上げていて、いかにも頼りになりそうなお兄さんだ。ミカリンと同じように頭の上に三角の耳がついている。

色が抜けきったような白髪にも関わらず年若そうなオリバーさんの手には青い宝石のようなものがついた魔法の杖がある。ピンクの髪をしたメイはハーフエルフであり、シモンとマリカと同じようなアーモンド型の目に耳が尖っている。彼女ももちろん雷をイメージさせる杖をもっている。


ファンタジーな人たちだ。羨ましすぎる。



「魔力が1もないカコです。剣も槍も使いますが、得意なのはものを投げることです、よろしくお願いします」



この会話を聞いていた他の2パーティの人たちも、パーティボレアースとヘカトンケイルは私への態度を軟化させて挨拶をしてくれた。


街の防衛戦は門のところから後衛職が攻撃を仕掛けて、城門の上に陣取る冒険者の下まで飛んできたやつを前衛火力が倒すことになってるらしい。

そうなると投石や投槍がある私は確かに丁度いいのだろう。



「では、ランク3のみなさんは城門の外での迎撃をしてもらいます」



なんで城門から出ちゃうのよ。


ユーゴさんからの指示にツッコミを内心でいれつつも文句を言えることはなく、大人しく与えられたポジションにつくことになった。世知辛い。


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