第6話 冒険者登録

文字面だけをみたらゲームが大好きな私とっては夢のような、そしてわくわくする瞬間であるにも関わらずさえない区役所のようなギルドの見た目でちょっとがっかりする。


考えてみてほしい。


大きな斧を持った大男のような人から、とんがり帽子をかぶったいかにも魔女といった出で立ちの人まで!

もうファンタジー丸出しの人たちが『とうろく』『じゅちゅううけつけ』『ほうこく・ていしゅつ』と平仮名の看板の下で、整理券を貰って木の長椅子に座って順番待ちをしているのだ。


シュールすぎる。


どうせならギルドもファンタジー要素欲しかった。どうしてそこだけ妙にリアリティのある日本式なの。



「間違いなしで今回の報酬をもらってきたぞ」

「シモン」

「わかってるよ」



『ほうこく・ていしゅつ』から戻ってきたシモンが私に丸いコインを差し出してきていた。


赤茶けたコイン、たぶん一般的に言う銅貨だと思う。

何の葉かは全くわからないが銅貨の裏には葉が描かれている。


まじまじと出された手の上に乗っている銅貨を眺めていたら痺れを切らしたシモンに怒られた。



「受け取れよ!」

「なんで?」

「冒険者として報酬を受け取るのは俺たち二人だ。でも今回の任務ではカコの力なしに終えることができなかったと俺たちもわかってる。だから報酬の一部を渡そうとしてるんだ」

「え、お金はいらないよ。その代わり、私の登録と魔物から取れたアイテムたちをどう売却したらいいとか、生活の基本を教えてほしい」



私に恩を感じている人を逃がすほど私は優しい人間じゃない。


せっかく始めて会った人が駆け出し冒険者ならチュートリアルをしてくれるというのが大概のゲームの定番。

もしくは転生か転移した地点で妖精さんや女神さまが待っていてくれて丁寧にこの世界のあらましから教えてくれるのが親切な定番である。その定番は私には用意されてなかった。


いきなり森にぶっ倒れてた辺りで神様からの贈りチュートリアルがないのは察してる。



「そうね、それもそうだわ。カコは文字を書けるかしら?」

「たぶん?」

「それなら待っててやるから、『とうろく』に行って来いよ」



『とうろく』の受付はがら空きで整理券なしでそのまま登録作業に入れた。


登録の受付にいるちょっと澱んだ目をしたお兄さんの親切な案内で、無事に名前と種族を記入した簡単な登録書を提出できた。

すぐに「カコ(デミヒューマン) ランク1」と書いてあるだけのカードが私の手元にやってきた。


カードの端に埋め込まれている石がバーコードのような役割を果たすため決して割らないことと念を押された。


カードを折らないみたいなノリで石を割ってはいけませんと言われても、石を割るって絶対事故でやることじゃない。


真新しいカードを手にしながら、待たせているシモンとマリカの元に戻った。


二人はギルドの一角にある長机が並んでいる場所で彼らも荷物整理をしているみたいだった。

私と一緒に『ぷるぷる(青)』『ダークバード』を倒していた二人は青と黒の石(魔物の核であり魔石と呼ぶらしい)、葉っぱ(薬草)、小さなナイフをたくさん持っていた。



「これらって売れる?同じもの持ってるんだよね」

「売れる。特に薬草はどれだけ売っても値下がりしない」

「へぇ」

「マリカが薬草士だから俺たちは売らないけど、固定で銅貨1枚にはなるぜ」



ところどころで口が悪いものの親切なシモンの説明で、ギルドの二階に常設している冒険者専用のアイテム売却店が初心者の私にはちょうどいいということがわかった。

市場のアイテム店で売ることができても、貨幣の基準がわかってない私ではぼったくられる。


二人はマリカが薬草を回復薬にしてから市場で売るらしい。

私の物をギルドの売店で売却している間に、マリカはギルド内にある調合室で回復薬にして後で市場に一緒に行ってくれるらしい。



「お!シモンの坊ちゃん、無事に戻ってきてよかったよかった」

「当たり前だろ!キース。今日の分の魔石を売りにきた」

「いやいや、俺だって心配したんだよ!シモンの坊ちゃんが任務を受けて森に入ってから、ゴブリンリーダーが森に出たって噂になったから。もう気が気でなかったぜ」



思わずシモンと顔を見合わせた。


シモンのマリカと同じエメラルドグリーンの瞳がちょっと泳いでいる。


その噂のゴブリンリーダーは私が持っている魔石の元のことだろうか。

私たち二人が微妙な顔をしたのをゴブリンリーダーについて知らないと理解したらしい売店の主は親切に教えてくれた。



「ゴブリンリーダーっていうやつはな。ゴブリンを従えて襲い掛かってくる厄介な魔物でよ、あの森に行くランク1の冒険者には荷が重い魔物だ。でも、安心しろ!明日にはランク3のパーティがゴブリンを倒しに行くからな!」

「そ、そうか」

「だから明日は信号玉や煙玉を持っていけよ!っと、魔石だな」



お喋りな店主キースは魔石が加工されて冒険者の装備品になったり、魔法を込めてランタンのエネルギーにしたりできるから取引されるんだと教えてくれた。



「よし、『ぷるぷる(青)』のが5個で銅貨1枚、『ダークバード』が3個で銅貨1枚、『ゴブリン』は1個で銅貨1枚。銅貨4枚と銅貨6枚、銅貨1枚で、銀1銅1だな。ゴブリンと遭遇してたのか」

「ゴブリンは手ごわかったな。キース、すぐ使うから銅11枚で渡してほしい」

「りょーかいっと」



先に売却して見せてくれているシモンと店主とのやり取りを見てほっとした。


銅貨10枚で銀貨1枚になるらしい。

良かった、10進法でなかったらどうしようかと思ってた。

12進法は苦手だ。

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