第15話 ~村の様子と獣人さんたちのこと:後編~

「そ、そういえばリアお姉ちゃんを起こしに行ったときにお部屋から話し声が聞こえてきてたんですけど何かお話してたんですか?」


 ココちゃんと一緒にクリネおばさんの朝ご飯を食べた後。


 わたしのお部屋となった小さな空間の中でココちゃんがわたしと向かい合う形で椅子に座っていました。


 いつもお昼まではこんな感じでわたしのお部屋でココちゃんと色々なお話をするのが定番になってるんだよね。


「えっとね、がーくんにこの村で知ったことをお話してたんだ。わたしには見るもの全てが新鮮で驚くことばっかりだったからねぇ」


「ふふっ。リアお姉ちゃんは見ててとても面白かったもんね」


「うぐ。だって、町にはないものばっかりですごかったんだもん」


 くすくす笑うココちゃんはふと、首を少し傾げながら人差し指を顎に持っていって。


「それじゃお昼になるまではまだがーくんとお話してるの?」


「うん。その予定かな? あ、もちろんココちゃんが良ければわたしのお話聴いてくれると嬉しいかなぁって思ってるんだけど。って、ココちゃんは知っていることだらけなんだけどね」


「ううん。リアお姉ちゃんのお話なら私も聴いてみたいな」


 うむむ、やっぱり可愛すぎるよねぇ。


 猫耳をピコピコ動かしながら照れるココちゃんを見てるともう、ね。


 今すぐ抱きしめたい衝動に駆られちゃうんだよね。


 でも、わたしは我慢が出来る女の子なので。


 今はその衝動は頑張って抑えるんだよ。


『最初我慢できずに撫で繰り回した気がするがな。それに他にも……』


 お父さんイグニス何か言ったかな?


『いや、何も……』


 まったくもう。


 あの時のことはわたしも反省してるんだからね。



 そんなわたしとココちゃんなんだけど。


 見て分かる通り、わたしはココちゃんのおうち。クリネおばさんのお家だね。


 そこに一緒に住まわせてもらってるんだ。


 それになんとなんと。わたし専用のお部屋もあってね。


 わたしとしてはココちゃんと一緒のお部屋でも全然良かったんだけど。


 というか、一度だけ一緒に寝たことがあるんだけど。


 無意識ながらココちゃんを抱き枕にしちゃってね。


 朝起きたらわたしの胸の中で窒息しかけていたココちゃんがいて。


 結局は別のお部屋で寝ることにしたっていう経緯があったりなかったりして。


『いや、あったに決まっているだろうに。クーはもっと自制心を鍛える必要があるんだがな』


 無意識状態の自制心ってどうやって鍛えればいいんだろうね?


 それにココちゃんには実は人には言えない秘密があって。


 このことは絶対に他の人には言わないでってお願いされたから口には出さないんだけど。


 ……おねしょ癖があるみたいなんだよね。


 そのこともあって出来るだけ一人で寝たいとお願いされちゃったらわたしも一人で寝ることになったんです。


 あ、ココちゃんがジト目で見てきてるよ……。


 言わないよ? あのことは絶対に誰にも言わないからね!?



 それでね。このお家には元々クリネおばさんとココちゃんが二人だけで住んでいたんだけど。


 何かしら理由があるだろうから訊けていないんだけど、わたしのお部屋の雰囲気的にどうも以前はココちゃんのお父さんが使ってたみたいなんだよね、このお部屋は。


 わたしとココちゃんが二人で並んでもまだまだ余裕があるベッドだったり。


 他にもお部屋の中に幾つか家具があるんだけど。


 大きな机やチェスト、本棚が壁に並んでるだよね。


 チェストの中には大きな男の人が着る服が入っていたり、本棚にはわたしが読まない専門書? みたいな難しい言葉が並んだ本が並んでたりするから。


 わたしの勝手な想像なんだけど、やっぱりココちゃんのお父さんが使ってたんじゃないかなぁと思ってるんだよね。


 でも、わたしはココちゃんのお父さんを知らない訳で。


 クリネおばさんもココちゃんも話題にも出ないからわたしも訊かないで過ごしているという状況になっているのです。


 っと、これ以上は暗くなるからこのお話はこれでおしまい!!


 それとね。わたしが着ているお洋服なんだけど。


 これは全てココちゃんのお洋服でもあるんだ。


 ココちゃんはわたしより少し小さいんだけど、背丈も体格もほとんど変わらないからココちゃんのお洋服もぴったり着ることが出来てね。


 毎日別の可愛いお洋服を着させてくれるからとても嬉しいんだよ。


 孤児院にいる時なんて自分用にシャツとズボンが与えられていたけど同じのが二着しかなかったから毎日別のお洋服が着れるってとても凄いことだと思ったんだ。


 まぁ、そんなわたしでも下着だけは自分のが欲しいと実は思ってたりするんだけど……。


 ココちゃんの下着を使わせてもらうのは全然気にしてないんだけど、さすがにわたしが履いたパンツを洗った後だとしてもココちゃんが履くって思うと恥ずかしさが込み上げてきちゃうんだよねぇ。


 あ。ココちゃんってあんまりそのあたり気にしてなかった感じなのかな?


 ご、ごめんね? 顔を真っ赤にしないで!?


 え、クリネおばさんに後でお願いしてみるって? えっと、その……。厚かましいけどお願いできたら嬉しいかも。えへへ。



 ふぅ。下着のことで少しわたわたしちゃったけど。


 朝ご飯を食べる前にがーくんには言ったけれど、この村には66人の獣人さんが住んでいて。


 その66人を束ねる人がおさであるお爺ちゃんで。


 お爺ちゃんは長だと言っても、名ばかりで適当にやっておるよなんて言ってるんだけど。


 わたしの為に色々としてくれたお爺ちゃんはやっぱり凄い人なんだなと思うんだ。


 犬人族で毛がもさもさしているお爺ちゃん。


 名前も教えてもらったんだけど、えっと何だっけ? なんだかとてもかっこいい名前だったのは憶えてるんだけど……。


 ココちゃんも覚えてない感じ? お爺ちゃんのことをみんな長って呼ぶから仕方のないことなのかな?


『あのご老人の名前ならフリーゼンリヒトという名前だぞ。他国のことだが、昔英雄となった者の名と一緒だな』


 あ、そうそう。フリーゼンリヒトさん!!


 誰もそんな名前で呼ばないから忘れちゃってたよ、えへへ。


 でも、お爺ちゃんは名前で呼ぶよりもお爺ちゃんって呼んだ方が嬉しそうだからわたしは今後もお爺ちゃんって呼ぶつもりです。



 そんな村にはわたしとココちゃん以外に子どもが5人いるんだよね。


 まぁ、そのうちの一人はまだ生まれて1年しか経っていない赤ちゃんなんだけど。


 その赤ちゃんを除けば歳は7歳~13歳の子どもがいて。


 一番年少なのがココちゃんで。


 わたしはほぼ丁度真ん中なのかな?


 9歳の犬人族の男の子と女の子が2人。狐人族の12歳が1人と猫人族の13歳が1人づつ。両方とも男の子だね。


 名前は9歳の男の子の方がアレクくんで女の子の方がフィーゼちゃん。12歳の男の子はエリオくん。13歳の年長である男の子がロジーくん。


 さすがにわたしと同じ子どもの名前は覚えたんだよ!!


 大人の獣人さんたちの名前はほとんど覚えきれてないんだけど。


 みんなわたしに優しくてね。いろんな遊びを教えてくれるんだ。


 もちろんみんなとはお友達にもなったんだよ!!


 ココちゃん含めてお友達が5人も出来るだなんてほんと夢みたい。


 そんなお友達と昨日は少しだけ追いかけっこをして遊んだんだよね。


 今日はお手伝いの後に何の遊びをするのか今からもう楽しみで仕方ないんだよねぇ。


 ココちゃんは人形で遊びたいの? もしかしてココちゃんのお部屋にあったお人形? あ、やっぱり。って、あれココちゃんが作ったの?


 凄いなぁ。裁縫なんてわたしさっぱりだよ。え? わたしのお人形も作ってくれるの? わぁ、とても嬉しいかも!! 楽しみに待ってるね。



 そうそう。獣人さんは人間と同じで15歳で成人扱いになるそうなんです。


 成人になった獣人さんは一端の大人として畑仕事だったり森や鍾乳洞、海でみんな毎日働いてるんだって。


 働く人の中には職人さんももちろんいて。


 大工さんや鍛冶師さん。他にも機織師さんや酒職人さんだったり色々な職人さんがいるんです。


 村で使ってる木や土で作られた食器や鉄のお鍋等の調理器具、今わたしが着ているお洋服だったりお部屋にある家具だったり。


 その他諸々のほとんどがこの村で作られているそうなんだよね。


 一人はみんなの為に。みんなは一人の為に。


 そんな言葉がとてもよく似合うこの村の獣人さんたちをわたしは見習って頑張って手伝おうと思ってるんだ。



 ちなみに煙が出ているお家は鍛冶場でした。


 中を見せてもらったときは複数のかまどが並んでいて、それぞれの竈が色とりどりに燃えてたんだ。


 何でも水車から歯車を使って竈の中に空気を押し出す仕組みを使っていて中の温度を変えているそうなんです。


 赤い炎や青い炎。紫色の炎なんかもあったけどわたしにはよく分からなくて。


『だが、我の宿主としては追々理解してもらう必要があるのだ。ゆっくりで構わないが頑張って覚えていって欲しいところだな』


 と。お父さんイグニスも言っているから頑張って勉強するつもりです。


 まぁ、そんな鍛冶場でまさかわたしが役立つときが来ることになるとは今この時は思わなかったんだけどねぇ。


 参考にココちゃんは普段何のお手伝いをしているか訊いてみたんだけど。


 機織りが得意な狐人族のお姉さんがいるんだけど、その人のところにお手伝いしに行っているんだって。


 だからお人形を作るのがとても上手なんだね。



 他にも獣人さんが住居として使っているお家以外に。


 鍾乳洞の中での保管じゃ限界があるみたいで、食料を長期間保存する為に燻製や乾燥させる目的の小屋があったり。


 わたしがいた町にもあったお店みたいな色々な物――布や家具類、食器類、鉄製品、他にも遊具だったり小物類だったりと取り揃えているお家があったんだけど。


 この村ではわたしがいた町のように通貨を使って物を買う訳じゃなくて。


 必要な人がいれば好きに持って行っていいそうなんです。


 但し、必要ないのに持って行ったり、無駄使いは決して行わないこと。


 そして、これは出来ればでいいらしいんだけど。


 代わりに何か――例えば自分にとって不要になった物や、新しく作った物を置いていって別の人が活用出来る様にして欲しいそうなんです。


 要は物々交換みたいなものなのかな?


 まぁ、わざわざそんなこと言わなくても村のみんなは何か持っていったら、別の何かを置いていっているんだって。


 物を大切に。そして必要な人の元に円滑に回る様に。


 みんなが快適に過ごせるように村全体が動いている証拠みたいなものだね。



 基本的に獣人さんは職人さん以外は各々得意分野に分かれるんだけど。


 獣人さんって一括りにしちゃってるけど、実際は犬人族だったり、猫人族だったり、他にはこの村には狐人族もいるけど。


 森の外の世界には鳥人族だったり、獅子族、熊人族なんていう種族もいたりするんだって。


 犬人族の人は基本的に獅子族と熊人族以外の他の獣人さんより力が強いから、鍾乳洞の中で採掘を本業にしてる人が多いそうで。


 門番のお兄さんみたいに別の仕事にあたってる人ももちろんいるけどね。


 代わりに猫人族は視力が良くて、俊敏な動きが得意だから森での狩猟や採取を本業にしてる感じだね。


 他に狐人族って種族の人も住んでいるんだけど、狐人族は犬人族と猫人族の特徴をほぼ両方持っているそうなんだ。


 ただ、嗅覚や力はやっぱり犬人族の方が凄くて、視力だったり俊敏さは猫人族の方が凄いみたいだから何でもできる器用な種族って感じなのかな?


 この村には狐人族は7人だけ住んでいるそうなんだ。


 友達のエリオくんが狐人族だね。


 そんな感じで大よそは種族ごとに得意分野が分かれているから、そこにったお仕事を行っているみたいなんだけど。


 とは言っても、その種族だからこの仕事をしろって訳じゃないみたいだから鍾乳洞の中には猫人族の人ももちろんいるし、木を伐採するには力がいるから犬人族の人が森に出ることもあるんだよね。


 そんな訳で。


 わたしに関してなんだけど。


 まずは色々と経験してみることにしました。


 自分が何に向いているのかまだ分からないからね。


 お料理はつたないけど孤児院でもやってたからある程度は出来ると思うんだけど。


 他のことは何が出来るんだろうなぁ、わたし。


 体力も力もないから力仕事は無理だろうし。


 何かを運ぶにしてもわたし小さいから……ちょっとづつしか運べないし。


『なに。クーがやりたいことを見つけて少しづつ頑張ればいいと我は思うがな』


 村のみんなもそう言ってくれるんだけどね。


 ゆっくりと見つけていけばいいんだよって。


 でも、今までこんなに優しくされたことなかったからなぁ。


 言われたことをやらないと罰を受ける日々だったからね……。


 だから自分からやりたいことを見つけて頑張れって言われても逆に困っちゃったから。


 一通りみんなの手伝いをしてみることで自分に何が出来るのか、何に向いているのかを知ろうと思ったんだ。


 うん。くよくよ悩んでても仕方ないし、とにもかくにも今日のお昼からわたし頑張るよ!!



 あ、一つ余談なんだけどね。


 湖の守り神様の子どもでもある、わたしの膝の上でうとうとしてるがーくんなんだけど。


 村のみんなのマスコット的存在になっているみたいです。


 わたしがいない時も村の子どもたち――わたしのお友達に遊んでもらったり。


 大人の獣人さんたちも良く食べ物を上げていたり、構ってあげているのを見るんだよね。


 特にお年寄りの人たちからは大層崇められていたりして。


 ただ、そんながーくんには一つ直してほしいところがあるんだ。


 元々はわたしというよりお父さんイグニスの影響を受けちゃったからなんだけど。


 さっきもなんだけど嬉しいことがあるとついつい口から炎を吐いちゃう癖が出来ちゃってるみたいで。


 駄目なんだよ? って何度叱っても全然直らないからほんとどうしたらいいんだろうね。


 そんなだから村中の人にももちろん知られちゃってる訳で。


 お父さんイグニスのことも知られてるから別段問題にはなってないからまだ何とかなってるんだけど。


 それでも危ないんだからね? がーくん分かったかな?


「がー?」


 ぽやぽやと寝惚け眼で鳴くがーくん。


 うん。絶対分かって無さそうだよねぇ。


 まぁ、わたし含めて一緒に頑張っていかないといけないかな。


 わたしはがーくんのお母さんだもんね。



 と、こんな感じで村のことも。そして獣人さんたちのこともお話終わったので。


 ココちゃんもお話聴いてくれて有り難うね。


 良い感じで頭の中の整理も終わったし。


 お昼から頑張ってみんなを手伝っていくよー!!

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