第14話 ~村の様子と獣人さんたちのこと:前編~

 わたしが獣人さんの村に迎え入れてもらって。


 早くも10日ばかりの月日が流れていました。


 今回はそんな10日間の間に知ることが出来た村の様子とそこに住む獣人さんたちのことを頭の中で整理する為にも。


 がーくんに色々と教えてあげようと思います!


 だからわたしのお話をちゃんと聴くんだよ?


「がーがー!!」


 うんうん。いいお返事有り難うね。


 ベッドの上に座っているわたしの膝に乗ったがーくんはとても元気良くて。


 それと、わたしが間違っていたり忘れていることがあったら教えてねお父さんイグニス


『任せておけ。娘の為ならお安い御用だ』


 えへへ。


 よし、それじゃいくよー!



 わたしが定住することになった獣人さんたちの村。


 この村には特に名前らしい名前はないんだけど。


 もしも名前を名付けるならアザリアの村になるそうなんです。


 アザリアっていうのはそもそも森の名前らしいんだけどね。


 わたしが彷徨い続けたこの広大な森がアザリアの森。


 そして、村のすぐ側に連なる大きな山脈をアザリア山脈って呼ぶことを村の獣人さんたちから教えてもらったのです。


 村にはわたし以外は当然獣人さんだけが住んでいるんだけど。


 現在の人数はわたしを含めて67人いるそうです。


 わたしがやって来るまでは66人だったということだね。


 教えてもらったとき結構多いんだなぁ、と思ったんだよ。


 実際多いのか少ないのか分からないんだけどね。


 比較をしようにも、わたしがいた町はどれくらいの人数の人が住んでいたか知らないからねぇ。まぁ、今更考えてもどうしようもないことだけどね。


 え? がーくんも人数に含めろって?


 うーん……。がーくんの育ての親はわたしだけど。


 がーくんも人数に含めちゃうと、村にいる動物としての猫や家畜も数に含めることになるから難しいんじゃないかなぁ。


 だからごめんね?


 わたしの家族であることには変わりはないんだからそれで許してくれると嬉しいな。


 あ、ちなみにお父さんイグニスは当然人数に含まれていないからね。


 え、違う違う。わたしの家族にはもちろん含めてるってば!! 村に住む人数の中にってことだよ!



 それでね。まず大前提なことなんだけど。


 基本的にこの村はほとんどのことが自給自足できているそうなんです。


 そんな村の様子なんだけど。


 村の中心には村中の獣人さんが集まることが出来る大きな広場があって。


 わたしが村のみんなに受け入れてもらったときに立っていた場所だね。


 普段は子どもたちの遊び場になってるんだけど。


 他にも宴会だったり、重要なお話をする場だったりと色々な用途に使ってるそうなんです。


 その広場と村門、逆に広場とアザリア山脈側に繋がる道は村のみんなが歩くための通路として何も建物がないんだけど。


 通路の脇には均等にたくさんのおうちが並んでいました。


 建てられた時期が結構バラバラなのか、建てた人の趣味なのか分からないんだけど。


 煙がもくもくと上がるお家だったり。


 町で見たお店みたいな色んな物が並んでいるお家もあったり。


 たくさんの木材や石を並べた小屋もあったね。


 そんな色々なお家があるんだけど、見てわかるんだけど同じ形のお家が一つもないことは少しびっくりしたんだよね。


 大半は住居して使っているお家なんだろうけど。


 それでも町にいたときはどのお家も似たような形をしていたから、わたしにとってはとても面白い光景だったんだ。



 お家のことに関してはまた後でお話するとして。


 広場と通路の横に建ち並ぶお家を挟んだ反対側。あ、湖がある方とは逆側なんだけど。


 そこには色んなお野菜や果物、小麦などが育っている畑がいっぱい並んでいて。


 そのすぐ隣には家畜として育てられている鶏と牛と馬がいて。


 柵で囲まれた中にはあまり広くはないんだけれど動物さんたちが自由に動けるだけのスペースがある放牧された広場がありました。


 どの動物さんたちものんびりと草を食べたり寝そべっていたりとしていてね。


 その中でも面白かったのが、時々だったんだけどお馬さんの背中に何故か猫が数匹乗っていて身体を丸めて寝ている姿をよく見ることがあったんだよね。


 何にせよ仲良く共存してるみたいで見ててとても和む光景だったね。


 それでね。そんな動物さんたちのことで。


 わたしにとってとても嬉しかったことがあるんだよ。


 わたしがこの村に定住するようになってから。


 実際は魔獣と戦い慣れる為なのと、鳥や兎を捕まえる為にもう少し前からなんだけども。


 お父さんイグニスが意識的に威圧を消していてくれているから。


 わたし、とうとう動物に触れるようになったんだよ!!


 わたしが近づいても逃げるどころか逆に近寄ってくれてね。


 もう、どの子ももふもふふさふさしててとっても可愛いんだよねぇ。


 でも、お馬さんがわたしにいっぱい群がってきて頭と髪の毛をはむはむされたのは苦い思い出かも。


 わたしの叫び声に慌ててココちゃんが助けに来てくれたんだけど、ココちゃんも同様にお馬さんの餌食にあっちゃったんだよね。


 その後は満足そうなお馬さんとよだれ塗れになったわたしとココちゃんがいて。


 わたしってそんなに美味しそうに見えたのかなぁ?


 あ、ちなみになんだけど。


 獣人さんたちと。動物である猫とか犬だとか。


 結構勘違いする人が多いんだけど、獣人とは言っても動物の扱いはわたしたち人間とまったく同じそうなんです。


 家畜としてもペットとしても、ね。


 例えば犬人族は普通の犬とは意思疎通出来ないし。猫人族も同じで普通の猫とは意思疎通が出来ない。


 遠い祖先を辿っていけば同じ存在に辿り着くかもしれないんだけど。


 それは結局のところ人間も同じで。


 お猿さん? から進化したって言われている人間もお猿さんと意思疎通が出来る訳ないのと一緒なんだよね。


 ただ、それでも獣人さんは動物としての特徴は持っているみたいで。


 匂いや音に敏感なのが犬人族。視力がとても良くて柔らかい身体を持つのが猫人族。


 この前ココちゃんが真っ暗闇も結構普通に見えるんだよって言ってたんだよねぇ。


 わたしは明かりがないと夜は怖くて身動きとりたくないから聞いてて羨ましく思っちゃったよ。


 っと、話が反れちゃったけど。


 ただ、動物たちとは意思疎通が取れないとはいっても、村にいる動物はみんなわたしたちの言葉をある程度理解している感じがしていて。


 ご飯だったり、鶏から卵を回収するときだったり、牛のお乳を搾乳するときだったり、馬の上に乗せてもらうときも。


 わたしたちの言葉で話すと分かってるみたいに反応してくれるんだよね。


 まぁ、それでも猫はやっぱり気ままに行動してるんだけどね。


 この前なんかがーくんの背中に子猫が4匹乗っかってたことがあったよね。


 あ、やっぱり我慢してくれていたんだね。


 わたしがどかそうとしてもにゃーにゃー言って威嚇してきたからどうすることも出来なかったんだよね。


 仔猫がいなくなるまで我慢してたがーくんは偉い偉い。えっと、だからね。褒められて嬉しいからって炎を吐くのは控えて欲しいかなーなんて。



 そんな家畜である動物たちのスペースと畑が並ぶスペースの横にはとても綺麗なお水が流れる水路があるんだよね。


 透き通る綺麗なお水はそのまま飲める程に冷たくて美味しいお水で。


 その水路は獣人さんたちの村の生命線になっていて。


 飲用水から生活用水、お風呂とかもだね。他にも畑への水やりも含めて全て担っている大事なお水は。


 わたしが森を彷徨っていた時の生命線でもあった湖から流れる川のお水とはまた別で。


 アザリア山脈の中を流れる地下水を引いていると村のおさであるお爺ちゃんから教えてもらったんです。


 ちなみに、その水路は当然だけどおさかなさんは泳いでいなくて。


 だけど、この村でも時々おさかなさんを食べることがあるんだけど。


 どうもそのおさかなさんは湖の方から捕っている訳でもなくて、じゃぁ、どうしてるんだろう? って、この時は思ったんだよね。


 あとでその理由は分かったんだけど。今はそのことは置いておくね。


 まぁ、そんな大事な要素満載の水路を初めて見たとき。


 そこにはもっと驚く物が実はあってね。


 なんと水車がくるくると回っていたんです。


 初めてソレを見たときは水車の存在すら知らなかったんだけど。


 流れる水の勢いを利用してくるくると回る木で出来た水車。


 その役割のおかげでわたしは毎日美味しいパンが食べることが出来ると知った時はとても驚いたんだよ。


 水車のすぐ近く。畑の脇でもあるんだけど。


 そこには石造りで出来たわたしの背丈の数倍はある高さの建物があって。


 建物そのものは遠くを監視するための高台の役割も持ってるみたいなんだけど。


 建物の中を見せてもらったら、中には麻袋に入れられたたくさんの粉がいっぱい並んでいたんだよね。


 その中身こそがパンの材料となる小麦粉だった訳で。


 水車の回転を利用して自動で石臼がゴリゴリと小麦を粉にしているところを見せてもらった時はとても感激したんだよ。


 石臼まで水車の回転する力を使った歯車がくるくる回りながらたくさん並んでて。


 そんなくるくるくるくると回る水車や歯車を考えた人はとてもすごいことだよね。


 それに他にも水車にはいろいろな使い道があるんだ。


 例えば、水車でお水を汲み上げることで、そのお水を土管に通して広場の脇に貯水出来る様にしていたり。


 土器や鉄を加工するための竈の温度調整に用いてたりととても役立つ存在なんだよね。



 そんな感じで。


 村の見える範囲に関してはある程度話し終わったと思うんだけど。


 実はこの獣人さんたちの村にはまだまだ秘密があってね。


 それがわたしが二番目に驚いたことなんだけど。


 あ、水路と水車のことはわたしの中では三番目に驚いたことなんだよ。


 えへへ。一番目はまだ内緒なのです。


 って、がーくんは一緒に見たから知ってるよね。



 村の大部分には当然森で伐採しているたくさんの木が使われているんだけど。


 他にも村の中には色んな場所でたくさんの鉄や石も使われているんだよね。


 そんな鉄や石。


 その採掘場所なのが、村門から真っすぐ進んで広場も通り過ぎて。


 アザリア山脈の手前まで進んだところにぽっかりと穴を開ける大きな口。


 わたしが初めてこの村にやってきたときに洞窟みたいなのが見えると思ったんだけど。


 実際、そこには洞窟があったんだよね。


 実際は洞窟というより天然に出来た鍾乳洞? って名前の場所らしくて。


 その中はとても広くて。


 わたし含めて子どもだけでは絶対に入らないようにととても注意されている場所でもあって。


 大人の獣人さんの主な働き場所であるのがこの鍾乳洞なのだそうです。


 奥へ進めば生活に適した加工しやすい石や、様々な鉱石が見つかるので採掘場として役立てているとのことでした。


 案内されてわたしも入ってみたんだけど。


 鍾乳洞の中はとてもひんやりしていてね。


 夏場はもうずっとこの中にいたいと思っちゃうくらい涼しくて。


 それに白くてキラキラした石みたいなのが色んな場所から伸びててとても綺麗だったんだぁ。


 とっても幻想的な場所は獣人さんたちにはとても欠かせない場所でもあるんだけどね。


 鍾乳洞の中からは継続的に水が流れる音が聞こえてきたから、たぶん外に流れる水路の元がこの近くを流れているんだろうね。


 常にひんやりしているから天然の保冷庫としても役立つ鍾乳洞は、丁度夏に近づいてきたこの暑い時期はとても助かる場所になってて。


 村で採取したお野菜や果物。森の中で見つけた木の実や茸なんかも長期間保存できるっていうとても優れた場所なんだそうです。


 ほんとこの村に来て驚くことがいっぱいありすぎて毎日毎日すごいすごいとしかわたし言ってない気がするんだよねぇ。



 そんなすごい場所なんだけど。


 実はもっとすごいものがあってね。


 案内してくれた犬耳のお兄さんに連れられて、鍾乳洞のかなり奥へと進んでいったんだけど。


 あ、正直今でもどう進んだのか分かってないよ。


 中は何度も分岐した道で別れていたんだよね。


 あんなの一人で入ったら絶対に迷う自信があるよ。


 だから大人の人たちは子どもだけでは絶対に入るなって言っているんだろうね。


 そんな迷路みたいな鍾乳洞の中を歩き慣れている犬耳のお兄さんに連れられて。


 辿り着いたそこには。


「うわぁ、うわぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 あの時のわたしはたぶん10分以上は呆けていたと思うんだ。


 でも、それだけ感動する光景が広がっていたんだよね。



 見渡す限りの水、水、水。


 ザザーンと水が波打つ音が聞こえるそこは。


 広大な海が広がっていたんです。


 もちろん海なんて見たことが無かったわたしだから。


 孤児院で読んだ本で知識だけは持っていたんだけど。


 そんなわたしの頭の中にあるちっぽけな知識を簡単に凌駕する程にすごい光景だったんだよね。


 実はアザリア山脈の裏手は海が広がっていて。


 長い年月を得てアザリア山脈の中に自然と出来た鍾乳洞は森と海を繋ぐ通路になっていたのでした。


 遠くにはなにも見えない地平線だけがあって。


 太陽の光を反射した海辺はとてもキラキラしていて。


 足元に広がる白い砂浜もとっても綺麗で。


 ついついそんな光景に見惚れて海へと近づいちゃったんだけど。


 あの時のことはほんとびっくりしたよねぇ。


 ザッパーン!! って大きな音と共にわたしの背丈以上の波がわたしを襲ってきたんだよ。


 当然そのあとはずぶぬれになっちゃったわたしとがーくんがいて。


 口の中がものすごくしょっぱいし、服が濡れてくっついてしかもなんかベタベタするしで。


 あまりの出来事に目が点になったわたしは水滴を垂らしながら茫然としちゃってね。


 やーあの時は大変だったよね、がーくん。


 他にも砂浜には色んな物が置いてあって。


 釣り竿だったり、銛っていう槍みたいな先が鋭利に尖った長い棒だったり。


 そしてそんな中で一番目を引いた物が木で造られた乗り物――小舟って言うらしいんだけど。


 なんと、それが水の上に浮くって言うんだよ。


 まだ実際に浮いているところも、乗せてもらってもいないんだけど。


 その小舟に獣人さんは乗って陸から離れた海の中からおさかさなさんを捕ったりしてるんだって。


 今度乗せてくれるって犬耳のお兄さんが言ってくれたから楽しみで仕方がないんだぁ。


 あとあと。とても大事なのがお塩!!


 海のお水はとてもしょっぱくてね。そのお水をお鍋で沸騰させて蒸発? ってことをやったら白い結晶が残るんだって。


 それがなんとお塩になってね。料理には欠かせない調味料になるっていうんだから本当にすごいことだよねぇ。



 そんな感じで10日間かけて村中を案内してもらって。


 わたしがすごいすごい言う度に案内してくれるみんなは嬉しそうにしてくれてね。


 とても充実した日々を過ごしてたんだ。


 え? 次は獣人さんたちのことを教えて欲しいの?


 でも少し待ってね。


 朝からお喋りしすぎたのと、きっともうすぐ――。


「リアお姉ちゃん起きてますか? あ、やっぱり起きてました。お早うございます!」


「あ、ココちゃんおはよう!!」


「お母さんが朝ご飯準備してるから今のうちに顔洗ってきなさいだって」


「はーい。ココちゃんも一緒に行こうね。あと、がーくんも」


「がーがー!!」


 タイミングばっちりだね。


 続きは朝ご飯を食べたあとにね。


 今日はお昼からみんなのお手伝いを頑張るんだ。


 だから、それまでに村のこと。そして獣人さんたちのことを頭の中で整理してバッチリ備えておかなきゃいけないね。



「リアお姉ちゃん早く早く」


「あ、待って。すぐ行くよ~」


 ドタバタと。


 わたしが望んだ楽しい毎日がそこにはあって。


 だから。


 わたしは今日も一日頑張って楽しむことにしたのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る