第04話 ~芸術は爆発です?~

 よっ、ほっと。


 何度もしゃがんでは目当ての物を拾い集めます。


 これは湿ってるから駄目かな。


 これは……わ。ちっちゃな虫がいっぱいだ。


 わさわさ手に登ってくる虫たちにびっくりしたわたしは。


 咄嗟にその手をぶんぶんと振り払ってしまって。


 それと一緒にせっかく集めた枯れ枝も一緒にばらばらに飛んでしまって。


 あああああああぁぁぁぁ…………。


 ううっ。せっかく集めたのに。


 ずーんと気持ちが落ち込んでしまったけれど。


 仕方がないのでまたせっせと拾い集めます。


 今度は失敗しないように拾った枯れ枝を一度ぶんぶん振り回して虫がいないことを確認するよ!


『……何をやっているんだ君は』


 うん。自分でも何をやっているんだろうなって気持ちになるからあまり言わないでほしいかな。



 そんな感じで暫く枯れ枝集めに勤しんで。


 よし。


「これだけあれば十分かな?」


『そうだといいがな。いやまあ、やってみれば分かるだろう?』


「むう。それはそうなんだけど」


 これだけじゃ足りないって言いたいのかな?


 イグニスに愚痴を零しながら。


 集めた枯れ枝を寄せ集めて幾つかの固まりを作ります。


 これで準備おっけーかな。


 ちなみにだけど。


 遊んでる訳じゃないよ?


 これは今のわたしに必要なことなのです。


『何をするにしてもまずはイメージが大切だ。それは分かるな?』


「うん。もちろんだよ」


 集めた枯れ枝の一つ前に陣取って座り込みます。


 イグニスの言う通りイメージは大切。


 水を喚び出すときもそうだよね。


「よし、いくよ!!」


 目の前の枯れ枝に意識を集中して。


 頭の中に何度も見た焚火を思い浮かべる。


 めらめらと。


 ゆらゆらと。


 わたしを温かくしてくれる炎。


 そんなイメージと共に。


「――炎よ」


 そして。


 わたしの声と同時に。


 目の前の枯れ枝は。


「ふえっ? わぷっ!!」


 ボンッと大きな音を立てて吹っ飛びました。


 それはもう盛大に。


 え、なんで?


 正直訳が分かりません。


 というか、口の中に小枝が入ってきてとても気持ち悪いです。


『……ああ、まぁ。練習あるのみだな』


「うえっ、ぺっぺっ。うぅぅ……イグニスぅ」


『涙目で見られてもどうしようもないのだが』


 うううううぅぅぅぅぅ……。



 そもそもの話。


 わたしが何をしているのかっていう話なんだけど。


 イグニスが言ったんです。


 炎と言う存在を知ること。それが制御する為の最初の一歩なのだと。


 ものすごく偉そうな言葉だけど。


 言っている意味はもちろん分かるよ。


 でも、炎ってなんなんだろうね。


 火と何が違うんだろう。


 水と氷みたいな?


 自分で言っておいてなんだけど、それは絶対に違う気がする。


 イグニスに訊いてもはっきりと教えてくれなくて。


 だから、まずは焚火をイメージして頑張っています。


 わたしの中に眠るイグニスの力。


 魔力と同じでその力を炎という形で放出させます。


「――炎よ!」


 爆発は――よし、しない。


 そこには、ぼわっと。


 枯れ枝に火が灯されて。


 まさか成功した!? と思ったけれど。


 次の瞬間。


 そのままプスプスと枯れ枝は灰になって燃え尽きてしまいました。


 …………?


 あれ、おかしいなぁ。


『火力が強すぎる様だな』


 むぐぐぐぐぐ。


 今度こそは!!


「――炎よ!!」


 さっきよりも気合を込めてみたら。


 わわっ。


 目の前には空まで伸びる炎の渦。


 ぐるぐるぐるぐる。ずごごごごごごご。


 枯れ枝は……きちんと燃えたね。それもまた一瞬で。


 さっきと違うところは灰すら残らない超火力だったってことなのかな。


 …………。


 えへへ。これ成功でいいかな?


 いいよね? え、駄目かな?


『いや、どうみても失敗だろう。そもそも力を籠めすぎだと言っているだろう』


 むう。


 だって制御が難しいんだもん。


『だからこそ練習あるのみだな。元々君は少ない魔力で水を喚び出していたのだからな。君の中にある魔力すべて使っても大事になることは今までなかったのだろう?』


「うーん。ちっちゃな頃に頭から水を被った上に魔力枯渇で倒れこんじゃったことはあるけど……」


『それはまた悲惨な状況だな……』


 小さかった時の過ちなんだからいいの。


 とにかく。


 少なくとも枯れ枝に火を灯して焚火を維持出来ないと前には進むことはできない訳で。


 わたしはまた枯れ枝をせっせと拾い集めることにしたのでした。


 次はさっきよりもっと枯れ枝集めたほうがいいかなぁ。



「――炎よ」


 何十回目かな。


 いい加減疲れ果てて。


 辺りも薄暗くなってきた頃。


 わたしの掛け声とともに。


 ぼっと枯れ枝に火が付いて。


 めらめらと。


 ゆっくり燃え始める枯れ枝がそこにあって。


 それは誰が見ても焚火と呼べるモノが出来上がっていました。


「や……やったああああ!!」


『ふむ。まあギリギリといったところだな。余計な力が抜けて制御出来たというところか』


「むー。頑張ったんだから褒めてくれたっていいのに」


『そうだな。クーリア。君は頑張っていると思うよ』


 自分で言っておいてなんだけど。


 こう素直に褒められると恥ずかしいかも。


 と、その時でした。


 ――ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ。


「そういえばしばらく何も食べていなかったかも」


『丸一日枯れ枝を集めて灰にするの繰り返しだったからな』


 ううううううぅぅぅぅぅ……イグニスの馬鹿。


 と、そんなことよりも。


 お腹がへったなぁ。


 久々にお腹の中の猛獣さんが暴れ出しているけど。


 周囲はもう真っ暗で。


 この場には食材集めをしていなかったわたしがいて。


 どれだけわたしは夢中になって練習していたんだろうね。


 ううっ。でも本当にどうしよう。


『クーリアよ。特に何も考えずに川に炎を喚び出してみないか?』


「う? 川に? 別にいいけど……。――炎よ」


 イグニスに言われるがまま。


 わたしは暗くてよく見えない川の方へと手を伸ばして炎を喚び出します。


 すると。


 ドーン!! という音が川からして。


 体にかかる水しぶきと。


 目の前には何も見えなくなった闇だけが映っていて。


 せっかく灯した焚火が水で消えちゃってる訳で。


 わたしが頑張って灯した焚火は何処かなぁ?


 同時に真っ暗になった周囲に何かがピチピチと跳ねる音が聞こえてきました。


 …………。


 あの。


 イグニスさん。


 わたし言われた通りやったんだけど。


 この状況はなんなのかな?


『それは我が聞きたいのだが。何故ここまで威力が強くなるのだ? 全く理解が出来ん……』


「ええええええええ。だって何も考えずにって言ったからそうしたんだよ!?」


『腹がへって余計な力が出ないと我は思ったのだがな……』


 わたしに言われてもそんなの分からないってばー。


 うう。お腹がへったよぉ。


 それに暗くて怖いよぉ。





 ――パチパチ。


 火が爆ぜる音が聞こえてきて。


 目の前には小枝に突き刺さったおさかなさんたち。


 あれから大変でした。


 本当にね。


『大変だったのは我だったがな』


 うるさいです。


 真っ暗闇の中でどうすることも出来なくて慌てふためいていたわたしは。


 結局イグニス自身がわたしを介して炎を喚び出してくれて水で湿った枝に火を灯し直してくれたんだけど。


 うう。せっかくわたしが頑張って付けた焚火だったのに。


『……すまなかった。我としては軽い爆発を引き起こすつもりだったのだが……クーリアの想いが予想外に強くて、な』


「あむっ。もぐもぐ……もういいよ。お腹をすかせたわたしの為だったんだよね」


 結果的にはこうしておさかなさんを食べられている訳だし。


 でも、さすがに明日は別の食べ物も探さないとかなぁ。


 おさかなさんも美味しいけれど、こうずっとおさかなだけだと栄養的にも心配だし。


 だけどこの近くに食べられそうなものもないんだよね。


 そもそもそんなものあったら森で彷徨っているときに死にかけなかった訳なんだし。


 甘い果物が食べたいなぁ。


 所々に高い樹の上に果物が生っているのを見かけるんだけど、わたしにはどうすることも出来ない訳で。


 小さい身体が恨めしいよ。力も全然ないし。


 うううう……。


『だったら明日はもう少し応用した炎の使い方を学ぼうか』


「むぐっ……応用?」


『うむ。そもそも君は魔法として水を喚び出すことは出来るが、それを操ることは出来ていないと思うが合っているか?』


「合っている、のかな。お水は基本飲む為にしか使ってないから」


『そうだな……例えば。水を固めて飛ばすことで枝を折る。これが出来ればクーリアが望む果物が食べられるだろう。我の炎についても同じことだな。ただ喚び出すだけでなく。喚び出した後にソレ等の形を制御することが何よりも大切なことなのだぞ』


「そっか。そんなことが出来れば色々なことが出来る……確かにイグニスの言う通りかも」


 元々魔力がほとんどなかったわたしにはない発想。


 貴重な飲み水を無駄に使えなかったから考えもしなかったけれど。


『我の力ならば。我の炎ならば君の魔力量の影響を受けない。だから思うがままに練習するといいさ』


 そうだね。


 明日は果物を採って食べるんだ!!


『あー……喜んでいるとこ悪いのだが』


「どうしたの?」


『いきなり果物が生る樹に君が炎を喚び出すと悲惨な未来しか思い浮かばぬのだが、我の気のせいだろうか』


「うぐ……そうなのかな」


 燃えちゃう?


 やっぱり色々燃えちゃうのかな?


『間違いなくそうであろうな。だから、そのだな。魚に飽きかけてると思うが、まずは川に向かって練習するのが一番だと我は提案をしたいと思うが如何だろうか?』


「えへへ。制御できないと燃えちゃうもんね」


 うん。分かってたよ。


 今日のわたしを見てうまくいく訳がない。


 いきなり明日果物が採れるはずがないことぐらい。


 きっと果物が爆発するか、樹そのものが燃える。そんな未来しか思い浮かばない自分が正直恨めしいよ。


 それにおさかなも美味しいしね。


 わたし嫌いな食べ物はないから美味しいものなら何でも来いだよ!!


『我も協力するから頑張れ。うまく制御できれば鳥や兎も食べれるかもしれぬぞ』


「お肉!!?!?」


 何を隠そうわたしはお肉が大好きなんです。


 孤児院ではめったに食べることが出来なかったけれど。


 果物にお肉。ああ、早く食べたいなあ。


 口の中が唾液で溢れてきたよ。


 あれ、だけど……


「わたしって動物に近づくことができないよ?」


『ああ、それなら大丈夫だ』


 前にも言ったけれど。


 わたしはイグニスの影響で無意識にイグニスの威圧が周囲に放たれている訳で。


 そのせいで動物は近づくどころか逃げてしまう始末。


 一度でいいからあのもふもふに触ってみたかったんだけどなぁ。


 と、それはいいとして。


 炎の扱い方に慣れても近くに動物がいなかったらどうしようもないと思うんだけどね。


 そんなわたしの思いを裏腹に。


『我の威圧のことだが。我の意識がある今ならば何時でも消せるぞ』


「え、そうなの?」


『そもそもそうでなければ側の川で泳いでいる魚すらも逃げているはずなのだがな。君がさっき川を爆発させた時も我は威圧は切っていたのだぞ。まぁ、今はまた復活させているがな』


 言われて納得かも。


 イグニス曰く。


 今もだけれど、普段はわたしを守るために威圧は出しているそうで。


 へたに威圧を消してしまうと、こんな森の中だとすぐに魔獣や野生の獣が近寄ってくるから。


 イグニスの判断で消せるときだけこっそり消していたそうです。


 そのことを教えてもらった時。


 わたしってイグニスに守られてばかりなんだな。と自分の弱さに悔しくも思っちゃったりして。


『そう卑下することはあるまい。君はまだ子供なのだから守られていて当然だと思っていていいのだぞ。我が言うのもおかしいがな』


「ううん。そんなことないよ。でも……、わたし頑張るね」


 頑張ってイグニスを扱えるようにならないと。


 それにわたしもう10歳なんだから。


 もう子供じゃないよ? お姉さんって言っていい歳なんだから!!


 だからね。


 だからわたしを見放さないでほしいかな。


 弱いわたしだけど。


 身体も小さくて。力も全くなくて。お腹もよくへるわたしだけど。


 イグニスを落胆させない様に頑張るんだ。


 だからずっと見守っててほしいな。



『我が君を見限るはずがあるまいよ。クーリア。君が頑張り続ける限り、我は何にでも力を貸すと決めたのだからな』



 そんなイグニスの独白は。


 いつの間にか眠りについていたわたしには聞こえなかったけれど。


 わたしはきっと今日もいい夢を見ると思いました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る