第172話チートなサムライ三度06


 そんなわけでこんなわけ。


 クロウとイズミは、駐屯地を離れ、砦に向かって進撃した。


「進撃は……まぁいいんだが……二人でも軍隊って言うのか? 軍事行為……いわゆる進軍でいいのか?」


 どうでもいいことに首を傾げるイズミ。


「傭兵なら兵士では無いのでは?」


 そーゆー問題でもにゃあのだが、「確かに」とイズミは頷いた。


 ソレで良いらしい。


「で、話を少し遡行させるんだが」


「何でしょう? 小生にわかることならいいのですけど。後、出来れば悩まなくて済む質量であれば尚良しですね」


「共和国側の軍は焦ってるんだよな」


「小生が相手側ならそうなりますね」


 もちろん将兵が楽観論なら話も違ってくる。


 一戦に驕ったら、また事情の想定も練り直す必要があるだろうが、クロウは常に警戒を優先事項にしていた。


「となると補給を求めて駐屯地まで進軍する……と」


「ええ」


「で、ここで中間地点にいる俺たちは……」


「でしょうねえ」


 二人とも心眼で捉えていた。


 尖兵だ。


 すこし険しい林を街道に切り拓いた場所。


 二人の幼年。


「何者為るや?」


 は毎度のこと。


 それは、幼年二人が武器を持って皇国と共和国の国境線――なお今は戦場と化している――にいれば訝しみも当然だろう。


「君たちは此処で何をしている?」


 兵士が一人。


 声をかけた。


 武器は手放さない。


 クロウにしろイズミにしろ、剣で武装している。


「敵かもしれない」は極真っ当な猜疑で、「事実だしな」が心中でのイズミの応答だった。


「ええと……」


 しばしクロウは言葉を選ぶ。


 何か悩んで、


「お仕事で少し」


 と答える。


「仕事? 水汲みか?」


「傭兵だ」


 率直にイズミが述べた。


 クロウも不平は言わない。


 結果として思案を踏みつけられた形だったが、まずイズミを知ればこうなることはクロウにも不思議が無い。


 別に必要もなかった。


「傭兵か」


 兵士たちが少し殺気立つ。


 手にした武器の……握りが強くなった。


「幼い年齢で苦労人だな」


 からかう様な兵士。


「ですね」


 穏やかかつ可愛らしく微笑むクロウ。


 華やげな笑い方は幼年でありながら、とても愛らしく可憐にほころんで、兵士たちを蠱惑に導く。


「なに納得してる」


 イズミはジト目で反論した。


 だが苦労性は御大の認めるところだ。


「つまり敵で良いのか?」


 確認するような兵士。


「はあ」


「まあ」


 二人は揃って頷いた。


 兵士たちはニタァと笑う。


「可愛らしい嬢ちゃんだ。捕虜にしたら可愛がってやるよ」


「おいおい。順番はジャンケンで決めるもんだろ?」


「いーや、処女は俺が貰う」


 やいのやいの。


「完全に舐められてるな」


「いいんじゃないですか? 一種の擬態でしょう」


「昆虫じゃあるまいし」


 ご尤も。


「じゃ、やるか」


 兵士たちが、クロウとイズミを見やる。


 瞬間、


「疾」


「射」


 二人揃って加速した。


 抜刀からの一撃。


 返す刀で第二撃。


「な――」


 なんだ。


 とでも言いたかったのか。


 その目は無明に閉ざされた。


 尖兵悉くが無力化される。


「殺してはいませんか?」


「一応な」


 サラリと言って、納刀。


「尖兵の異常を確認するには……」


「一刻程度でしょうね」


「その間には砦を捉えられるな」


「そうありたい物です」


 多分、純軍事的には、今圧倒的に共和国側が不利だった。


 怪物二人。


 砦に向かって進撃する。


「南無八幡大菩薩」


 ピッと印を切るクロウなのでした。

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