第170話チートなサムライ三度04
「とりあえず砦の奪還が優先すべき任務ですか」
クロウが地図を見ながら言う。
「問題は、一人でソレを成し遂げた傭兵」
「どう考えてもSランクですね。まぁまず間違いなく亜人ではありましょうぞ。特定はせずとも宜しいでしょう。ていうかする気ありませんよね?」
「だぁなぁ」
嬉々わくわく。
「イズミ様はどう為されるので?」
「正面から堂々と」
「…………」
分かっていても驚かざるを得ない。
兵士たちの心情はそんなところか……無論、夢物語や妄想に位置づけられる言動ではあれど世界はもうちょっと狂っている。
クロウの方は慣れた物。
実際に、その実力は否定しがたい。
「此処からなら歩いて一日ですか」
クロウは地図を見て、概算する。
「向こうも焦っているでしょうし」
これは決めつけに思われた。
実際に、
「何故だ?」
とイズミが問う。
「単純に補給線の限界ですよ」
元々合戦の将だったクロウである。
功を逸って失敗する教訓は胸に刻んでいるが、経験則から動乱を生き抜いた手腕は見事であり……その辺は理解があった。
「距離的に、村と砦が近い」
地図で駐屯地と成っている村と、砦を、交互に指す。
「なら兵站はこの村。砦は軍事力の一点」
そして共和国側の砦を指す。
「こっちは距離にして四日から五日。ならこの空白地は戦場のはず」
つまり畑も何もあった物では無い。
砦を制したと言っても、補給物資がなければ兵は飢える。
「まず真っ先に物資を狙うと成れば……」
「この村か」
そうなる。
「とはいえ全面戦争もしないでしょう。イース皇国そのものを滅ぼしても傷が残るだけ。政略的には旨みがありません」
「であるなら?」
「国境の再定義」
結論は其処に成る。
「ダンジョンの恒常支配。多分狙いは其処でしょうね」
実際に皇国側の砦から先にダンジョンはある。
つまり今は共和国の手の内だ。
「イース皇国はセントラルを背景に持っていますので、国力そのものは共和国に劣らないはずです」
「サラリとまぁ」
「砦を奪われたと言っても、あくまでそれは戦術レベルに於いて。であれば、全面戦争をした場合、どう考えても皇国が勝ちます」
「ソレこそ何でだ?」
「皇国は地力にプラスでセントラル産業が地金に成っています。しかも隣接する国家は共和国以外は同盟国。対して共和国は、あらゆる国境沿いの国家と並列している」
「ふむ?」
「つまり、皇国と戦って戦力が偏重すると、『この機在りし』……と他国から戦争をふっかけられる。二正面作戦を展開するほど、共和国には余裕はないはずです。なら、おそらく国境紛争程度で収まります」
サラリと言う。
「結論は先と変わりません。ダンジョン産業のための領土恒常化。そのための進軍です。ぶっちゃけた話をすれば……」
コホンと咳払い。
「皇国がダンジョンを諦めて砦と駐屯地を放棄すれば、共和国はそれ以上の進軍はしてきませんよ」
「それじゃ仁義に悖る」
険しい顔をしたのは兵隊長だった。
将軍だ。
敗将だが、村まで逃げながら士気が高いのは、クロウも認めるところだ。
実際に駐屯地と成っている村を見れば、士気は中々。
敗軍でありながら、復讐戦にも滾っている。
「で、それを補佐するのが小生らの役目ですね」
「問題の傭兵を無力化……か」
「そう相成ります」
チョンと地図上の砦を指してクロウは苦笑い。
「楽しみだな」
「ええ」
爽やかに笑う。
「我々はどう動けばいい?」
将軍がクロウを見やる。
もはやソレは幼年を見る目ではなくなっていた。
「好きにどうぞ」
クロウの答えはあまりに無責任だった。
が、仕方ない。
本当にその通りなのだ。
共和国側は、実のところ皇国との戦争を恐れている。
であれば、この駐屯地以上の侵略はしない。
得られる回答は三つ。
一つ。砦まで進軍して国境の再定義。
一つ。駐屯している村で進撃軍を迎え撃つ。
一つ。ダンジョンと国境を棄てて退く。
そしてクロウとイズミは、正に、
「どうでもいい」
と思っていた。
「行くか。留まるか。退くか……か」
「そうなりますね」
サラリとクロウ。
「宜しい。作戦を練る。御仁らは?」
「とりあえず今日はここで骨休めだな。風呂があるだろ」
温泉の湧く土地だ。
ニコニコ笑顔のイズミだった。
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