第169話チートなサムライ三度03


 しばらくランナー車で街道を走っていると、斥候の兵士に出くわした。


「どちらだ?」


 事情聴取。


「セントラルから。傭兵ギルドの紹介」


 委任状を差し出す。


 何処で用意したのか。


 クロウは知らなかった。


「イズミ様……っ!」


 兵士が絶句する。


 それはそうだろう。


 Sランクの傭兵だ。


 年齢が幼すぎて説得力を持たないが、そのため初見のインパクトは大きい。


「戦線に加わってくれるのですか?」


「いや、こっちで勝手に動く」


 そもそも傭兵は兵士や騎士の類では無い。


 もちろん、命令系統には属する物の、イズミの場合は、「周りが邪魔」でファイナルアンサー。


 クロウも、どちらかと云えば遊撃になりたかった。


 兵を統率するのも武人の本懐だが、そこに名誉が発生する以上、今のクロウにとっては心的外傷でもある。


 二、三、言葉を交わして、クロウとイズミは拠点となる村に導かれた。


 兵士らが溜まり、喧々諤々。


 ――あまり良い雰囲気でもありませんね……とクロウは呟いたが、イズミは聞こえているにしても反論も無いようだ。


「砦はどうしたんだ?」


 イース皇国と共和国は互いの国境に砦を持っていたはずだ。


 国境線の定義は国によって解釈に違い在れども。


「奪われました」


「だろうな」


 ものすごく納得のいく結論だ。


 砦から離れた村で駐屯しているのだから、どう考えても負けが込んでいると見て差し支えない。


「戦力差は此方が有利なはずだがなぁ」


 ――はて?


 とイズミ。


 クロウも少し考える。


 むしろ二人とも、大体は察し得た。


 忠告も記憶している。


「まさかたった一人の傭兵に砦を奪われたとは……」


「…………」


 スッと目を逸らす駐屯兵。


「来たぜ」


 イズミの瞳が燗と燃えた。


「期待大ですね」


 クロウも物騒ながら似たような心境。


 たった一人で砦を攻略する。


 亜人か。


 武芸者か。


 あるいは凄まじい魔術師か。


「傭兵です」


 とは聞いた。


「破滅的な魔術と剣術を用います」


 とも。


「じゃ、明日から進軍だな」


「え?」


 兵士がポカン。


 進軍。


 それも一人で一軍に匹敵する傭兵の居る場へ……と申せば一般的な人間ならば恐怖畏怖程度は、ソレは覚える。


「いや、お前らは此処にいて良い。むしろ邪魔」


 この歯に衣着せない言い方はイズミらしい。


「勝手に行動させて貰う」


 イズミの腰で虎徹がチャキッと謳った。


「そちらの幼年も?」


「お前らよりは強いぞ」


 説得力の無謬さは、確かに有る。


 信じ難い……も、確かに有るが。


「一人で砦攻略か」


「何にせよ、一筋縄では行きませんね」


 普通に食事をしながら閑談。


 しばらく干し肉を食べていると、


「お前がイズミ様か?」


 一人の兵士に声をかけられた。


 云うまでも無い。


 今更だ。


 力量測らずに喧嘩を売ってくる馬鹿は。


 見れば顔が朱に染まっていた。


 酒毒にやられているのだろう。


「本当に強いのか?」


「ま、それなりに」


「じゃあいっちょ指導してくれよ。強いんだろ? そんな歳でSランクになってるくらいだ。どうやってギルド員を誑しこんだんだ?」


「…………」


 ふっと吐息をつく。


 キシュッと擦れるような音がした。


 続いて、イズミが『振り抜いていた刀』を鞘に丁寧に納める。


 キンと虎徹が鳴いて、


「以上。講義終了」


 納刀が完了する。


「何を……痛っ」


 一瞬の出来事。


 痛覚が急に兵士を襲い、見れば親指が関節から切り取られていた。


 居合い。


 あるいは抜刀術。


 クロウをして、


「見事」


 と評させる静かな起こりだ。


 兵士がついていけなくとも仕方ない。


「ぎ……があああああっ!」


 指を失った兵士が、痛みに吠える。


「また馬鹿が出たよ」


 他の兵士は、


「自業自得だ」


 とスルーした。


 特に戦争に深い兵士ほど、イズミの威力を知っているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る