第168話チートなサムライ三度02


「国境までもう少し……と?」


「ですね」


 途中で寄った村のこと。


 宿に泊まって温泉に浸かる。


 感応石のイヤリングで出来る……念話による状況説明。


「無事に帰ってこられるんですか?」


「保証はしませんよ」


 そこは嘘をつけないクロウだった。


 というか、「嘘をつく意味がない」が正しい。


 クロウにとって合戦とは、「首級を得て君主に奉ずる道」であるのだ。


 今のクロウはそのアンチテーゼだが、「状況的に何某かとの争いにはなるでしょう」は納得の範囲。


「お兄ちゃんを失うのが……怖い……」


「心配をおかけして申し訳ありません」


「お兄ちゃんの……せいじゃない……」


 それはご尤も。


「そっちの傭兵は大丈夫なんですか?」


「どうでしょうね。年がら年中何考えてるんだか分からない御仁です由……本気で未知数の生き物です」


 すさまじい表現をするが、あながち間違っていないのはイズミの人徳か、あるいはクロウの明敏さか。


「イズミは……戦犯……」


「わりと比喩表現にも為っておりませなんだ」


 実際に戦争に向かっているので、比喩表現どころか事実だ。


 ところで、


「ふい」


 パシャッと湯水を肩に掛ける。


 クロウは宿の温泉に入っていた。


 温泉は上々で、泉質も上々だった。


 夕飯も山菜と川魚の食事で好感が持てる。


 基本的に、「山育ち」なので、自然は身についている。


 実際のところ、質素で自然により近い食事の方が、クロウの好みと合致し、ついでイズミも好むモノ。


「あー」


 イズミの方は温泉に蕩けていた。


 萌え。


 蕩れ。


「で」


「何か?」


 念話のイヤリング。


 感応石の便利さには舌を巻くが、そもそも距離を越える辺りで既に非常識ではあろう。


「その戦術級の傭兵と?」


「そゆことになりますね」


「どう考えても人の御器ではありませんね」


「やはしそうですか?」


 クロウもそうは思っていた。


 人体には限界がある。


 なおそこで八面六臂というなら、「亜人か?」は真っ当な疑問。


 人に類似する特徴を持ちながら、人では有り得ざる能力を獲得した者たち。


 念話中の二人もまた此処に分類される。


「最悪は……」


 とおずおず愛妹。


 ローズだ。


「オーガの転生者……」


 つまりクロウやイズミだ。


 オーガ。


 金剛の体を持つ亜人。


 超常的膂力。


 難老長寿。


 フィジカルで最強種と呼ばれる亜人だ。


 争いでは、血肉が兵器と化す。


 クロウにしろイズミにしろ、その血を受け持って初めて、幼いながらに元の剣術を発揮しうる。


 ハードとソフト共に最強。


 経緯は違えど。


 だからこそ、敵が敵足り得ないのだが。


「しかし他にサムライというと……」


 クロウは余り知らない。


 イズミは少しは知っているが、自身が、「剣聖」と呼ばれる身だ。


「後の時代だったりして」


「……………………」


 クロウが沈黙した。


 笑い飛ばせる話ではない。


 実際にクロウはイズミという現実を知っている。


 ソに於いて、「また次が無い」は楽観論だろう。


「いいんですけどね」


 それはむしろ望むところだ。


 戦場の花に為る気は無い。


 功名はクロウの最も畏れるところ。


 けれど、「剣の術者」はどうしても惹き付けられる。


 人斬りの業だ。


 御大の影響かも知れなかった。


「おかげで生き汚いわけですが」


 パシャと湯を掛ける。


 温かい度合いの湯が、心身をほぐして、疲労とストレスを取り除いてくれる。


 この時間がクロウは好きだった。


「あとは先生が居ればいいのですけど……」


 オリジンとも山の温泉で一緒に入った仲だ。


 少年趣味も一つの教養。


「大丈夫……? お兄ちゃん……」


 ローズは不安を隠せていない。


「大丈夫ですよ」


「まぁ戦いで心配はしませんが」


 対してアイナは其処に不安ではないらしい。


「けれど、怪我しちゃいけませんよ」


 ――無茶を言う。


 とはいえ心配は伝わってくる。


「善処しましょう」


 政治家みたいな御為ごかしで取り繕うクロウだった。


 子細を聞いたイズミが、


「悪党」


 ニヤリと笑う。


「知っています」


 クロウにも自覚はあった。

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