第167話チートなサムライ三度01


「結局ダンジョン探索と言うことで」


「そゆこと」


 クロウの言葉にイズミが頷く。


 ロードランナーを用意され、のんびりダラダラ旅路の上。


 ――皇国と共和国の国境沿いに出来たダンジョン。


 根幹は其処だ。


 元よりダンジョンは、生産性が有る。


 新たなダンジョンなら国の財産だ。


 これで国内ならまだ良かったのだが「国境沿い」というだけで「国境紛争」と相成るのだ。


 国益に適う財産。


 もとよりセントラルがおかしいのであって、普通ダンジョンは国が管理するもの……という意見が正しい。


「そんなことで命を消費するのも」


 とはクロウの苦言だが、


「傭兵でしか食えない奴もいるからな」


 事実は事実として其処に有る。


 必要悪……とはまた違っても、手に職持つのに暴力を頼る輩は一定数存在する……ということだろう。


「イズミもですか?」


「俺の場合は勘所を知るためだが」


 ホケッとイズミ。


 剣術馬鹿。


 だが実のところ戦場剣術という意味でなら……不利に相当する。


 合戦の妙はむしろクロウ側だろう。


 源平の戦いで無双した前世。


 イズミをして、


「伝説の再来」


 と呼ばしめる逸材。


 たしかに合戦剣術は源義経の花形だ。


 殆ど鬼神さえ避けるレベルの「断じて行なえば」の域に達している。


 一種「病気です」とは当人談。


 おかげでトラウマ抱えて異世界で生きているのだから……命の妙はクロウやイズミを飽きさせない。


 つまりイズミとしては、


「で、ソレを利用しようと?」


 ――小生の合戦剣術を取り込みたいと言うことに収束するのだろうか?


 首を傾げるクロウ。


「ソレも一つ」


「他は?」


「言ってたろ」


「?」


「戦術級の傭兵がいると」


「ああ」


「戦ってみたいのも事実でな」


「性分ですね」


 クロウも実のところ少し戦意を刺激されていた。


 一軍を退ける一人……こと人間を止めているレベルで、ついでクロウとイズミも此処に分類される。


 クロウは傭兵ではない。


 だがイズミと同値の戦闘力を持つ。


 イズミはSランクの称号を持っており、これは所謂「人間を止めています」の代名詞でもあるのだ。


 攻略不能と言われるSクラスのダンジョンに潜って活動できる人材。


 それはまぁ確かに化け物呼ばわりも致し方なかろう。


 そして今イズミが向いてるのは、そに比肩しうる仮想敵。


「もしかしたら」


「転生者?」


「だといいな」


 サラリと言う。


 ランナー車がパッカラパッカラ。


 一応、面倒を避けるため、乗合馬車ではない。


 クロウとイズミだけで独占したランナー車だ。


 ロードランナーと呼ばれる足の早いオオトカゲを馬の代わりに用いている。


 だいたい馬車の三倍の速度。


 イース皇国の東。


 国境沿いに向かって移動している。


「どれくらいで着きます?」


「ランナー車なら三日ってとこだな」


「早いですね」


「何事も迅速に」


「ですね」


 チョンチョンと鬼丸の柄頭を叩く。


「少し不安ではありますれど」


「何がだ?」


「戦争は久方ぶりですので。こっちでは鍛錬しかしておりません故、合戦の空気は久方ぶりと申しますか」


「ああ、大丈夫だ」


 イズミが保証した。


「矢は捉えられるだろ?」


「それはまぁ」


 これを謙遜で言うのだから救い難い。


 ぶっちゃけるとあらゆる意味で理不尽の塊だ。


 クロウとイズミ……両者揃って。


「魔術は鬼丸が何とかする」


「それもまぁ」


「剣はむしろ独壇場だろう」


「ですかね」


「後は噂が真実であれば良いな」


「ですね」


 強者との戦いは、在る意味で二人の魂の根幹だ。


 つわものと戦えるのは武士の本懐。


 そうでなくともクロウの腰に差している鬼丸は「血が吸いたい」とカチャカチャ何時も鳴いている。


 物騒な剣だが、素振りする内に勘所も掴めてきて、血気逸る鬼丸を宥めることが出来るようになったのも最近の話だ。


 イズミの虎徹も血に酔っていた。


「で、ダンジョンのクラスは?」


「分かっていたら言っている」


 それも確か。


 そもそもソレを争っての国境紛争だ。


「人間の業ですね」


「何処に行っても変わらんな」


 おかげで飯が食えるわけだが。


 ランナー車が走る。


 ――カチャリ。


 鬼丸が鳴いた。


 その柄頭をチョンチョンと叩く。


 流れる景色を見ながら、鬼丸を掣肘するのだった。


 血を見るのは、戦場だけで良い。


「栄光も功名も要らじ」


 ソレはクロウの魂だ。


 功に逸ることを極端に畏れる。


 それが安全弁となっていた。


 いずれオリジンの元へ帰る日が来る。


「それでも」


「何か?」


「いえ、血塗られた手を……」


 嘆息。


「先生は受け入れてくれるでしょうか?」


「さてな」


 イズミには他人事だ。


「駄目でも俺がいるさ」


「それもどうでしょう?」


 それは半眼にも成る。


 けれどイズミもまたクロウに惹かれているのは確かな事実でもあり申し。

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