第166話イース皇国の難18


「くあ」


 のんびり欠伸。


 クロウは朝早くに目を覚まし……ちなみにこれはイズミも似たような物である。


 何時もの型稽古。


 素振りをして、剣を体に馴染ませる。


 剣身一如。


 ――その究極は、静も動もあまり変わらないらしい……とはクロウとイズミの共感を覚えるところ。


 だからといって振るう剣の差異に天地があるのも、また否定しようにもできない海溝のような亀裂があるも。


 瞬く間に数千回を終わらせ、風呂で汗を流す。


 それから朝食。


 ホテル側が用意したモノだ。


 もぐもぐ。


「美味しいですね」


「まぁ乳製品はちょっと朝からは辛いが」


「大和人って素食だったんですねぇ」


「それは俺も思う」


 で、閑話休題。


「戦場はどうするんです?」


「ギルドで、足を確保して貰おう」


 そゆことになった。


 真っ当に歩いては、まず戦線の硬直に解決の糸筋がない……というか仮に皇帝の情報が確かなら、多分こっちの七割五分がた負けだ。


 急ぐ必要は無いも、戦線を維持しきれなくなる前に付く必要はある。


「まぁ崩壊したならしたでソレも面白い」


「イズミ。いやらしい顔になっています」


「面白いと思わんか?」


「強者と戦うのは心躍る。それは確かですが……業が深いとはこの事でしょう。救いきれぬ性は、まぁ今に始まった事でもありませんが」


 そんなわけでこんなわけ。


「覚悟!」


 傭兵らしき武装の徒が襲ってくる。


「…………」


 サラリと双眸が切り裂かれる。


 イズミの抜刀だ。


 今宵の虎徹は血に飢えている。


 宵じゃないが。


「賞金首か」


「何もしとらんじゃあ……ありませんか」


 クロウにして見れば不条理だろう。


「変態皇女が目をつけるのも分かるがな」


 イズミもクロウに憎からず。


 その手前、


「趣味は良い」


 との結論にも成る。


 とはいえ、


「天誅!」


「成敗!」


「野郎!」


 波濤のように襲ってくる傭兵は、さすがにうんざりさせられる。


 というか、


「共和国との国境で武を振るえ」


 が率直な二人の感想。


 瞬く間に被害者が山と積み上がる。


「色々思うところがあるのでしょうか」


 クロウは少し同情するが、


「馬鹿ってだけだ」


 イズミの方は、切り捨てる。


 で、傭兵ギルド。


「国境までの足を」


 受付で職員に声をかけるイズミ。


 クロウはカウンターの席に座って、ホケーッとしていた。


 皇女のクエスト発注から逆算して、


「ギルドで飲食は要警戒」


 とイズミに言われていた。


 腑にも落ちるが、


「そこまでですかぁ」


 少し人間に絶望もする。


 何でも、


「クロウを拘束して、城に送り届ける」


 ミッションが高額で提示されたらしい。


 南無三。


 クロウとしても頭の頭痛が痛かった。


 で、


「お前がクロウか」


 そゆことにもなる。


 イズミは受付からチラリと視線を飛ばしたが、


「興味なし」


 と職員との会話に戻る。


「鬼丸に食事させるのも一興ですか」


 チャキッと鬼丸が謳う。


「ひゃはは! 此奴締め上げて高額報酬? 笑えるわ!」


 絡んできたのは傭兵だ。


 至極当然だが。


「ちょっと痛い目見せてやんよ」


 ブラックジャックを振り回す傭兵。


 頭上に一撃。


 不発に終わった。


 振り回したときには、ブラックジャックは切り裂かれていた。


 居合い。


 抜刀術。


 クロウの言うところの、


溜抜ためぬき


 だ。


「ふ」


 チンと鬼丸を納刀すると、


「――――」


 傭兵の首から鮮血が噴射した。


 動脈を切ったのだ。


「――――」


 周囲がざわめく。


 捉えた人間はイズミくらいだろう。


 剣の抜きから納めまで。


 刹那の模様だ。


 一般人には無理な武芸。


「魔術か?」


 そんな感想まで出る始末。


 ――出来はしますけどね。


 言葉にはせず、心中補足するクロウだった。


 皇国に難あり……これっぱかりは認めざるを得ない案件で、まぁある種、逆説的なクロウの価値の証左ではあったろう。

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