第164話イース皇国の難16
で、
「クロウ!」
ワサビが突撃してきた。
イズミと入浴中だ。
二人揃って幼年なので、見る分には微笑ましいのだが、いかんせん中身は成熟した大人がインストールされている。
とはいえ幼年は幼年。
そこに成年女性が割り込んだら、
「結構洒落にならんな」
とイズミ談。
「体を清めてあげる!」
全裸で混浴してくるワサビに、
「…………」
クロウは刀を向けた。
薄緑だ。
重いはずの日本刀も、クロウが持てば立派な凶器。
ある種、王族に剣を向ければ不敬罪に当たるのだが、その気になればクロウは誰にも止められないだろう。
「何処から取り出したの?」
「そこかよ」
イズミのツッコミも冴えない。
「なんで剣向けるの?」
「有害です」
「ひどっ!」
「事実ですから」
「ちょっと洗うだけだから! ちょっと触るだけだから! ちょっとゴニョゴニョを弄るだけだから!」
「幼年趣味もいい加減になさい」
「ソレで止まるワサビでもねーぞ」
全く面白くは無いが、イズミの言うことにも一理ある。
「普通の恋愛は出来ないんですか?」
「普通って何よ?」
「そう来ますか……」
頭の痛いクロウだった。
「とにかく弄らせて?」
「何を?」
「ナニを」
「却下」
薄緑を構えて間合いを計る。
「殺しはしませんが、痛い目には見て貰いますよ?」
「例えば?」
「手足の一本は頂きます」
冗談事ではなく、クロウは言ってのける。
「妥協は?」
「こちらを騒がせない。そこですね」
「意味ないし!」
「興味もないので」
サラリとクロウは言う。
「ぶっちゃけた話……」
とはイズミの言だ。
「クロウの剣はマジだぞ」
「むぐぅ……」
呻くワサビ殿下。
「待遇が応相談でも?」
「却下」
妥協の余地無し。
そもそもオリジンが居る限り、
「クロウと事を成せる人間が存在しない」
でアンサーだ。
「ぬぐぐ」
ワサビの呻き。
「回れ右して外に出てください。嫌と仰るなら」
「仰るなら?」
「叩き出します」
「斬るの?」
「いえ」
映像がブレた。
薄緑の峰打ち。
「――――」
気絶したワサビを運んで、脱衣所に放り投げる。
「さて、では風呂を楽しみましょう」
「お前も大概だな」
ちょっとイズミも引いていた。
「ワサビ殿下!」
「殿下!」
にわかに脱衣所はうるさかった。
「疲れる城ですね」
「場所を変えるか」
「そうしましょう」
――ホテルでも見繕って。
二人はそう思案する。
「おのれ不届き者!」
女性騎士が剣を抜いて此方に殺気を当てる。
「どうする?」
「少し揉んであげますよ」
クロウが薄緑を構えた。
一時的に入浴を取り止めて。
「切り捨ててくれる!」
「嫌ですねぇ」
「風呂が血に染まるのはどうなんだ?」
比較的常識を口にする珍しいイズミだった。
ワサビといると気勢も削がれるらしい。
それはクロウにも言えたことだが、どちらにせよワサビが常識の範疇外にいるのは至極尤もな通念だったろう。
「一閃!」
女性騎士の剣が奔る。
「驕れる者も……か」
イズミがポツリと呟く。
「殺しゃしませんけど、痛い目見てください」
クロウの薄緑も、また奔った。
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