第161話イース皇国の難13
「よ」
気さくにイズミは片手を挙げた。
「「「「「――――――――っ!」」」」」
ざわつく護衛と臣下。
「お久しぶりだ。イズミ殿」
苦笑する皇帝。
場所は謁見の間。
クロウとイズミは皇帝と対峙していた。
「予にその様な口を聞く人間も少なかろう」
「付き合いもあるしな」
殺気立つ臣下たちを、
「許せ」
皇帝が諫める。
「で、何の用だ?」
直球。
というより、用も無くイズミを呼び出すほど皇帝も暇じゃ無いだろう。
その点を鑑みて、重要事を出来る限り真っ先に片付けたい……というのがイズミの思惑の一つであり、もっとも望むものだった。
「国境紛争に決着を付けてくれ」
「傭兵の仕事か?」
――軍事レベルを個人で片付けろ。
そう言われたも同然だ。
「で、本音は?」
「国境の定義を有利にしたいのでな」
「だからその提議を言えって」
臣下が殺気立つ。
「やるか?」
剣呑な雰囲気を作ると、
「「「「「――――――――」」」」」
殺気が収まった。
「さすがよな」
「別に誇らしい物でも無いが」
サラリと。
実際にイズミの剣技は知れ渡っている。
王……陛下直属の騎士であれば、そこは察するに余りある。
その上で尚、イズミの不敬罪を正したい……が本音ではあるも、イズミと……それからクロウを相手取っては難しいを通り越して具体的なプランすら青写真を描けない。
「で、国境に何があるんだ?」
「新しいダンジョンだ」
「ほう」
とイズミ。
クロウも少し眉を上げた。
「ちょうど、共和国との境でな。そこからこっち軍事衝突が活発になっておる」
「お前らの都合だろ」
「その通りだな」
「そんなことのために人命を消費してるのか?」
「それを言われると痛いが」
皇帝の苦笑い。
「向こうには、軍事バランスを崩壊させる剣士がいるらしい」
「…………」
此処でイズミが黙ったのは概算のためだ。
「たった一人で戦線を維持していると?」
「むしろ侵略されているとすら言える」
扇動。
あるいは挑発か。
どちらにせよイズミを焚き付けているのは確か。
「殺せ……と」
「無害化してくれればいい。ソレが適うのはイズミ殿だけだろう」
「にゃるほど」
要するに一騎当千の無害化。
ソレさえ為せば良いとの提案だ。
「共和国との兵力差はどんなもんだ?」
「さして変わらぬよ」
サクリと言ってのける皇帝。
「装備も人員も此方が上だが……其奴のせいで膠着状態だの」
「それで俺を呼んだわけか」
「受けてくれるか?」
「是非もなく」
むしろ嬉しそうなイズミだった。
クロウも興味を引かれている。
「とりあえず今日は此方で過ごしては如何?」
「すぐに出ろとは言わないのな」
「イズミ殿にも都合はあるだろう」
「じゃ、接待してくれ」
「承り候」
至極真っ当に皇帝は頷いた。
「客間を用意させる。そちらで宜しいか?」
「構わんぞ」
ぬけぬけと。
「そちらの御仁は……」
ここで初めてクロウにスポットが当たる。
「イズミと同室であれば構いません」
涼やかに述べる。
「何者?」
「知りたかったら剣を持て」
確かにその通りでは有るのだ。
「イズミ様をして立てさせますか」
「ま~な~」
ホケーッと述べるイズミ。
「然程でも無いのですけど」
クロウはぼんやりと。
「とりあえずは……まぁ無害だ。剣さえ持たなければ」
「愛らしい少女ですね」
「俺の自慢だ」
「いやぁ」
照れるクロウも萌え。
「死にたい奴から剣を向けろ」
それほどまでに、クロウは目覚ましかった。
「イズミ様の保証付きですか」
「然りだ」
意地の悪い笑みを浮かべるイズミ。
「南無」
クロウは神仏に願うのみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます