第160話イース皇国の難12
皇城は高い城壁に囲まれていた。
堀が掘られ、跳ね橋が架かっている。
「どうも」
と警備の兵にイズミが挨拶する。
「イズミ様?」
「然りだ。こちらがよこされた手紙」
国王の捺印された手紙を見せる。
その手紙を持って、兵士の一人が城内に確認に行った。
「面倒ですね」
「実力で押し入るか?」
「待ちましょう」
物騒なことを楽しげに言うイズミ。
クロウは常識論を口にした。
しばらくして兵士が確認を取って、現われる。
二人の警備兵が、クロウとイズミに宛がわれ、城内へ。
城壁内は豪奢な庭が運営されていた。
――国境では血が流れているのに。
クロウも否定はしないが、思うところもあった。
「何か言いたそうだな」
「いいええ」
別に。
軽く受け流す。
「謁見は……可能なのですか?」
「一応客分だしな」
サラリとイズミ。
「向こうから来いと云っておいて、顔合わせ無しってのも道理じゃないだろ?」
「ご尤も」
そこは頷ける。
「小生はどう身を振れば?」
「いつも通りで構わんよ。その気になれば城内ごと敵対できるだろ? 少なくともお前様なら一人で」
「剣で解決する問題でしょうか?」
「邪魔な奴を叩き潰すのが傭兵の仕事だしな」
「小生、傭兵ではございませんが」
「そうだったな」
今更のようにくっくとイズミは笑った。
それから待合室に案内される。
「お飲み物は如何しましょう?」
メイドが尋ねる。
「チョコレートを」
「ミルクと砂糖ありありで」
その通りに飲み物が来た。
「ごゆっくり」
その言葉を残して退室。
クロウとイズミはチョコレートを飲む。
「一体小生は何をしているのでしょう?」
「謁見」
「そう言う事じゃなくてですね」
「分かっちゃいるが」
一口。
「何か手元に置いておきたくなるんだよな。お前様のオーラというか……もうちょっと雰囲気に近いところで。嫌なら嫌で良いんだが」
忍び笑いのイズミだった。
緊張とは縁が無いらしい。
クロウも実は同じ境地だ。
あまり他者を敬うことをしない。
例外は『御大』と『先生』くらいか。
あとは
高級の調度品に囲まれてリラックス出来るのも、
「図太い」
と表現できた。
「不敬罪は打ち首ですか?」
「そうなるな」
「その場合は?」
「鏖殺すればいいんじゃないか?」
「…………」
似たような回答は、クロウも持っていた。
「ですか」
とチョコレートを飲む。
「暇だし一手所望する」
「構いませんけどね」
スルリと言葉は剣気を呼んだ。
虎徹の斬撃。
受ける鬼丸。
「薄緑じゃなくていいのか?」
「これも鍛錬ですので」
チョコレートを飲みながら淡々と。
一瞬の間。
五合の打ち合い。
クロウとイズミだけの世界だ。
「ふむ」
「くっ」
剣の術理を試す二人。
互いに相手の剣を知る。
動のクロウと静のイズミ。
反射的に振るわれる剣。
鍔迫り合いも一瞬のこと。
すぐに間合いは離れ、
「疾」
「射」
高速の連撃が火花を散らした。
「やっぱりクロウが一番楽しませるな」
「光栄の至り」
穏やかにチョコレートを飲む。
二人揃って。
適度にイメージで剣を振るっていると、
「謁見の許可が下りましたが……」
伝令用の兵士が、待合室に現われた。
この兵士には、先の手合わせは見えていない御様子で、つまり少しだけクロウはここの防衛体制を不安にも思ってしまうのだった。
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