第13話セントラル国家共有都市領域04
「つまり」
とアイナは言った。
要するにセントラル国家共有都市領域についての講義だ。
政治的空白地帯。
他に名を付けるなら国際化領域が妥当だろう。
「セントラル」
と名付けられるだけあって国々の中心にある不可侵地帯のソレだ。
「私の祖母の頃はセントラルをめぐって戦争が頻発したらしいのですけど」
とはアイナの言。
ちなみにアイナは長寿で知られるエルフだ。
外見年齢はクロウと大差ないが実年齢について語ろうとすると阿修羅を背負って威嚇する傾向にある。
ことクロウも鬼の血を得ているため数年の歳月が過ぎても家出した頃と外見年齢が変わっていないので他者の都合に意見を具申できない立場でもある。
閑話休題。
そんなアイナ……亜人エルフの二世代前というのだから、
「何百年前の出来事なのか?」
思案はするが結論を放棄せざるをえないクロウでもあった。
そのアイナの祖母の代ではセントラルをめぐって戦争が頻発。
というのも現在セントラルと呼ばれている土地はダンジョンが多数出土しており、経済的、文明的、利益的、様々な恩恵の可能性が眠っているソレであるのだ。
ダンジョン攻略は傭兵や冒険者の本分ではあるが、これを手に入れようとするに当たって国家には他国家が支障であった。
北のノース神国。
南のサウス王国。
東のイース皇国。
西のウェス帝国。
セントラル国家共有都市領域を中心に相対する国々だ。
一纏めに『神王皇帝四ヶ国』とも呼ばれる。
リアクションはアクションなくして成り立たない。
戦争も国防のために戦うならば侵略者の存在が前提にある。
つまり戦争の本質は征服と略奪に端を発するのだが、ことセントラルではこれが上手く機能しない。
神王皇帝四ヶ国はセントラルに眠るダンジョンと、その攻略に於ける恩恵に垂涎として確保しようと躍起になったが、一つの国がセントラルを征服すると、側面の国家から横やりが入る。
例えば北のノース神国が征服すれば、サウス王国とイース皇国とウェス帝国が、
「レコンキスタ」
と攻めてくるのだ。
当然三ヶ国に一つの国が勝てるわけもなく、永続して領土維持を行なえない特殊な土地と相成る。
色々と戦争から策謀まで奔った後、
「面倒だから国際化領域にしよう」
となぁなぁで決まった。
神王皇帝四ヶ国の共有財産となりセントラル国家共有都市領域と呼ばれる都市国家が生まれたという次第だ。
正確には国家ではないがクロウたちの世代では既に政治的発言力もあり、先述したが一種の都市国家として有機的に運営されている。
ことダンジョンがもたらす恩恵は計り難くも有り難い。
無論危険もあるが、腕に覚えのある傭兵や冒険者の類はダンジョンから貴重な物品を発掘するので、市場も潤い自治領として立脚しているという。
豊富なダンジョンにロマンを求めて傭兵や冒険者たちが集まり……結果として市場の流動性も豊かに実り、傭兵ギルドから商人ギルドの介入、ついで幼い人材にはダンジョン攻略のスキルを修めるための学院まで出来る始末。
アイナはそこで教授をしているらしい。
「つまりその学院に向かっていると?」
結果論としてそうなる。
アイナ曰く傭兵や冒険者を夢見る人材を育てる大きな学院がセントラルには存在し、色々と便宜も図られるとの事。
概ねにおいて騎士学院と魔術学院の二つに大別される。
武力を旨とする騎士と魔力を旨とする魔術師。
「傭兵を大別するならこの二つであるため、それぞれを教養とする学院も二つ」
ということらしい。
「アイナは魔術学院の方の教授ですか」
「ですね。あんまり身体能力は高くないんです」
「小生はむしろ魔術より剣術が得意なのですけど」
無論それについてはアイナも把握している。
どちらかと云えばクロウは騎士に近いタイプだ。
だが、
「だーめ」
と反抗された。
元よりクロウと一緒に居たいがための処置だ。
騎士学院に取られるのは人材として……それからアイナの恋慕として有り得ない。
「そんなものでしょうか?」
ポニーテールを揺らして首を傾げるクロウ。
愛らしくはある。
「ていうか剣術については幼年学校で教わるレベルじゃ無いですよね?」
その通りではある。
もっともクロウにしてみれば、
「御大のレベルにはまだまだなのですけど」
との意見もあるが、こと転生者の恩恵として人後に落ちない武力を持っているのもまた事実。
魔術方面は得意でなかったため、
「伸ばすならそちらだ」
とのアイナの意見も的外れとは言えなかった。
「学生もダンジョンに潜れるんですか?」
問うたクロウに、
「結構無節操に客は入り乱れていますよ」
アイナは苦笑して答えた。
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