第12話セントラル国家共有都市領域03
「お前さんらは百合百合か?」
「ええ」
一寸の躊躇も無く言い切るアイナだった。
まったく誤解だがこの状況で弁解しても面倒なので黙々とクロウはじゃがバターを食べている。
バターのコクとジャガイモの甘みが至福のハーモニー。
「なら男の良さを教えてやるよ」
「間に合ってます」
どこまでもけんもほろろ。
その間に、
「けぷ」
とクロウは食事を終えた。
パスタとじゃがバター、それからオニオンスープ。
どれも未知の味であった。
ヴィスコンティ家はサウス王国にあるため、家出するまで取っていた食事は海産物が主だったのだ。
「では行きましょうかアイナ」
「はい。クロウ様」
二人は立ち上がってサラリと退席した。
「待てや!」
と傭兵は激昂してクロウの手首を掴む。
次の瞬間、
「っ!」
傭兵はひっくり返って床に叩きつけられていた。
合気と呼ばれる技術だ。
「っ? がっ……」
「触らないでください。気持ち悪いです」
手首を掴まれただけで蟻走感を覚えるクロウ。
オリジンならば大歓迎だが赤の他人には拒絶で当然である。
なお男ならば五割増し。
「このクソガキ!」
傭兵が立ち上がって激昂する。
「表に出ろ!」
「嫌です」
いっそ爽やかにクロウは言った。
「ここで斬り殺すぞ!」
「それは困ります」
どうしたものか?
クロウとしては功に逸って過失を起こすことを異常に畏れざるをえない。
結果論として人に対し武力を振るう事の意味を知っている。
そこから引き起こされる業についても。
「クロウ様?」
「何でしょう?」
「やっちゃってください」
「ですが」
「私のために御願いです」
「ソレを言われると辛いですね」
苦笑する他ないクロウだった。
食事代を払って表通りに出る。
そもクロウはセントラルを知らないため未知の居場所にある異邦人なのだが、立ち合い自体は初めてではない。
クロウと傭兵が対峙して視線を交わすとワッと周囲の人間がざわめいた。
トトカルチョが行なわれる。
表での決闘はおおむねそんな感じだ。
無論クロウの倍率は右肩上がりだが。
見た目の年齢は幼い少年だ。
言ってしまえば絡んだ傭兵が大人げないのだが、そこを指摘しても因果は断ち切れないだろう。
「力を示すもまた已む無し……ですね」
そう言ってスッと脱力する。
「では始めましょうか」
両刃の片手剣を抜いた傭兵にクロウはそう合図を送った。
「武器は持たないのか? 防具は?」
「要りませんよ」
不遜。
傭兵や観衆にはそう映った。
一人理解しているのがアイナである。
「じゃあやってやらぁ!」
激怒して頭に血の上った傭兵が襲いかかってくる。
剣には殺意が乗せられ、刺突という最短距離での攻撃。
それをスラリと避けて傭兵の胸当てに掌底を放つ。
ドクンと傭兵の体が波打った。
衝撃。
「げ……が……!」
吐血して倒れ伏す。
「…………」
沈黙。
停滞。
止水。
それらが場を支配する。
「では参りましょうかアイナ」
クロウが微笑むと、
「さっすがクロウ様です!」
アイナは抱きついて頬ずりした。
そして場を離れる二人。
気絶した傭兵は立ち合いの観衆によって身ぐるみ剥がされ裸一貫かつ一文無しの状況に陥るが、それはまた別の話。
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