第一章 妖精 2
クーデターから5年が過ぎ、俺は17歳になった。片手剣と盾による剣術を一通りマスターし、新人に敎えられるレベルにまで到達した。
”盾”と言うと防御のみを扱う武具と思われがちだが、それは誤解である。片手剣は両手剣より軽い分、盾も攻撃の一作用として利用できる。
例えば、盾は”はじく”ことで防御と攻撃を同時に行うことができる。相手も片手剣で自分も片手剣だった場合、剣による攻撃を盾で受けることになる。
しかし、盾で受けると同時に相手の剣を外側にはじくことで、相手の懐ががら空きになる。
その隙に剣で突き刺す。
剣の攻撃方法は”振り下ろす”か”突く”のどちらかだ。そのため剣というのは真っすぐに鋳造される。曲がっていたら、突いたときに力が100パーセント伝わらないからだ。
反対に振り下ろす場合は剣の重みでダメージを与える。よって、両手剣の方が振り下ろした場合の威力は高い。
力が足りないと盾では防ぎきれない。ただ、両手剣は重い分、振り下ろす速度が遅いので、慣れれば、簡単にかわせる。
さて、クーデター失敗によって左遷されたオーウェン将軍だが、腐っていたわけではない。
南ライラック地方で勢力を伸ばし、参謀にキラーニーという人物をを迎えていた。いつも黒の服で全身を覆い暗い性格だが、頭は切れる。
オーウェン将軍の勢力拡大の一助を担っていた。
ところで、南ライラック地方一帯に渡るほど勢力を広げれば、王都にいるホロウィッツ枢機卿の干渉を受けるのが普通である。
しかし、ライラック地方の地形がそれを難しくしていた。
まず、王都は北ライラック地方に入る。オーウェン将軍が左遷されたのは南ライラック地方だ。その北ライラック地方と南ライラック地方の間には山が連なり、街道もあまり発達していない。
従って、南ライラック地方での事件なども北ライラック地方には伝わりにくく、支配権を及ぼすのも難しい。何より移動に時間がかかる。
仮に南ライラック地方で騒動が起きても王都に伝わるまでに一日。それを聞いた王都にいる枢機卿がすぐに行動したとしても移動でもう一日かかる。
しかし、南ライラック地方内では交通が発達しているので、情報も数時間で入手でき、移動もたとえ端から端であっても半日あれば足りる。
つまり、王都に情報が伝わる間に事件の起こった場所に着いてしまうのだ。良かれ悪かれ、先に着いてしまえば、どうにでも処理できる。
オーウェン将軍に”地の利”があるというわけだ。
ある日、俺はレイク・ミジンコ周辺に眠ると言われるアダマンタイト探索に命じられた。
キラーニー参謀と数名の部隊での任務だ。
どうやら、オーウェン将軍はアダマンタイトを使って、第二次クーデターを画策しているようだ。将軍との付き合いも五年になる。
直感で分かった。
ひとまずキラーニー部隊はレイク・ミジンコへと足を向けた。
湖に着くと青い三角屋根のログハウスがあったので、俺はキラーニー参謀とともに訪ねた。
トン、トン、トン。
キラーニー参謀がノッカーを叩くと白髭のおじいさんが現れた。
「何の用じゃ?」
少しかすれているが威勢のいい声だ。
「この辺りでアダマンタイト伝説を聞いたことはありますか?」
参謀の代わりに質問をした。
「アダマンタイト伝説じゃと!?」
「何かご存知なのですね?」
勘のいい参謀が口を挟んだ。
「わしゃ、知らん! アダマンタイトの伝説なんか聞いたことないぞ!!」
おじいさんは急に声を荒げた。
「おじいさん、逞しい体ですね。昔、探検とか好きだったのですか?」
慌てて俺がフォローした。ここで引き下がるわけにはいかない。時には阿ることも必要である。
「じゃが、妖精伝説なら知っとるぞ!」
気を良くしたおじいさんが妖精について語り始めた。
「それは奇跡だ! 妖精に会ったことがあるなんて!!!」
俺は少し大げさに驚いて見せた。キラーニー参謀はニヤリとした。
「いかにも」
おじいさんは小鼻をうごめかした。
「このレイク・ミジンコから流れ出るリバー・ミジンコじゃが、少し下流に行くと大きな滝があるんじゃ。そこがかの妖精伝説の地じゃ。運が良ければお主らも妖精に会えるかもしれんな。ふぉっふぉっふぉ」
「滝を見たか?」
キラーニー参謀が解せない表情をしたまま聞いてきた。
「いえ」
俺はありのままを答えた。
しかし、大きな滝なら通ってきたときに水が滝壺に叩きつける音が聞こえそうなものである。
俺も参謀も怪訝な表情のまま、その場を後にした。
「キラーニー参謀、滝なんてありませんでしたよ」
思案顔のキラーニー参謀を見やった。
「だが、他に有力な手掛かりもない。何もしないでいるより行動する方が価値がある。ひとまず行ってみよう」
「そうですね。他に住人もいませんし……」
二人は天網恢恢としたレイク・ミジンコの大自然を見渡した。
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