第一章 妖精 1

5年前………。

オーウェン将軍(当時は兵長)はある軍事クーデターに秘密裡に加わっていた。クーデターの首謀者は正門を警護するペペ隊長。

決行は新月となる30日に決まった。


 夜のクランベリー城は大きなドラゴンが一匹で警護をしている。外から援軍を呼ぶ場合、そのドラゴンが弱体化すると言われている新月の夜が最適だった。何せ体長30メートルの大物である。まともに戦って勝てるわけがない。

しかし、いざクーデターとなるとホロウィッツ枢機卿の方が一歩上を行っていた。密かにクーデターの情報を入手し、執務室に近衛兵を待機させていたのだ。

 ホロウィッツ枢機卿の執務室に突入を仕掛けたペペ隊長は袋の鼠となり、天井窓から無数のボーガンの矢を射掛けられ、形勢が逆転した。

 続けて、近衛兵に連れられて、オーウェン将軍が執務室に入ってきた。

万事休す、である。

実はクーデターが成功すれば、メアリー王女を保護し、裏門から脱走する手はずだった。

さらにはメアリー王女をトップにして新しい国家を樹立する計画まであった。それくらいホロウィッツ枢機卿に対する不満がペペ隊長らにはあった。

メアリー王女は幼くして即位し、実権はホロウィッツ枢機卿が握っていた。そう、後見という形で。

年齢的な側面からも当初はペペ隊長らも容認していたが、徐々にホロウィッツ枢機卿が魔の片鱗を見せ始めたのだ。


 次の日、ペペ隊長は処刑された。クーデターの主犯格である以上、自然な流れであったが、これもホロウィッツ枢機卿の権力に寄るところが大きい。

そして、当時は兵長にすぎなかったオーウェン将軍は南ライラック地方へ飛ばされた。クーデター時にオーウェン将軍についていた10数名の兵士も一緒だった。

俺もそこにいた。まだ部隊に入りたての12歳。

前の月に基礎練兵を終え、配属されたばかりだった。王都・クランベリーの近衛兵という華やかな夢はあっけなく散った。

 ただ、クーデターという大罪に加担したにも関わらず、南ライラックへの左遷で済んだのは運がよかったのだろう。慣習に照らせば、処刑されていても不思議ではない。

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