30.

「私、利香先輩が好きなんです」

 とうとういってしまった。利香先輩の顔が見れない。

「ライクじゃなくて、ラブの方。初めて会った時からずっと、どうしようも無く好きなんです」

 一度口を開くと、もう止まらなかった。

 利香先輩は、口を挟まず立ち去りもせず聞いてくれている。

「長い髪も、時々香るシャンプーの匂いも、笑った顔も、時々するちょっと困った顔も。優しい所も、お淑やかに見えて実は行動的な所も、演劇が大好きな所も、全部全部好きなんです。だから、」

 だから、お願いだ。どうか、どうか。

「私と、付き合ってくれませんか」

 自分の膝を見詰める。ジーンズが擦れて少し色の褪せた膝。夕日が眩しい。

 沈黙が怖くて、ぎゅっと目を閉じた。

「優衣ちゃん、」

 利香先輩が俺の――「私」の名を呼ぶ。その声が酷く優しくて、胸が震えた。

 心臓がばくばくと大きな音を立てて早鐘を打つ。耳鳴りがして、全部が遠く思えた。

「あのね、私……」

 カンカンカン、踏切の音がする。電車が右手から入って来て――利香先輩が言葉を発して――ごおおと音を立てながらホームに吸い込まれていった。

 利香先輩の方を振り向く。眉尻を下げて尚綺麗に微笑む顔がある。

 視界が滲んで、顔が勝手にくしゃりと歪んだ。

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