28.

 カラオケボックスには、十四時十分前に着いた。電車の都合で、隣町から通っている生徒達は既にこちらに着いており、駅前の喫茶店でお茶をしてからやって来た所だった。

 十分の間に他の生徒達も集まった。顧問の九十九先生も当然誘ったのだが、こういうのは大人が居ると盛り上がらないから、といって来なかった。気遣いの出来る大人。

 フリータイムで歌いに歌った。一番大きい部屋を取って、飲み物でテーブルがいっぱいな中、うっかりコップを倒さなかったのは奇跡なくらい盛り上がった。

 勿論利香先輩の歌声も堪能した。控えめにいって天使の歌声だった。ここは天国か。

 一応俺も何曲か歌ったが、まあ、愛嬌のある歌だったと思う。

 以外にも四ツ木先輩の歌が滅茶苦茶上手く、目をハートにしている部員も居た事に俺は気付いてしまった。歌が上手いってだけで! ああいや、四ツ木先輩は人格も良いのでだけではなかった。失言失言。

 そうこうしている内にお開きの時間が近付いてくる。このあと、四ツ木先輩と利香先輩と駅前の喫茶店に行き、他の隣町から来ている部員達と帰宅の時間をずらし、駅の側にある広場で告白する手筈になっていた。これは四ツ木先輩の案で、前日の内に既に約束を取り付けてある。

 その事を考えるとどきどきして、終盤はカラオケに集中出来なかった。告白の言葉だって、結局考え付いていない。行き当たりばったりの告白が、ただでさえ同性という高いハードルがあるのに、成功するとは思えなかった。

 けれど、これ以上黙って側に居るのも限界だった。だから告白すると決めたのだ。絶対に。

 空にオレンジ色が射し込む頃、解散となった。サプライズで三年生にはミニブーケがプレゼントされる。笑う四ツ木部長の目元が光って見えたのは、俺の気の所為だろうか。

 俺は駅に向かうグループに混じって自転車を押し歩き、駅の側にある喫茶店の前で別れ、利香先輩と四ツ木先輩の三人で喫茶店へと入った。

 おばさんが一人で切り盛りしている喫茶店には看板犬が居る。いつもお客さんを熱烈に出迎えるチワワだ。彼は俺達を大歓迎で、尻尾が千切れんばかりに揺れていた。

「コーヒーとケーキのセットを」

「俺コーヒー」

「私は紅茶とケーキのセットで」

 それぞれ注文して、ふっと沈黙が落ちてくる。けれど、それは決して気まずいものではなかった。

「終わっちゃいましたね」

 最初に俺が口を開いた。

「終わっちゃったな」

 四ツ木先輩がいう。

「……終わったね」

 利香先輩だ。

「大変でしたね、準備」

 俺がいうと、二人共頷く。

「衣装の用意が一番大変だったな。ミシンなんて授業でちょっと使っただけだったし」

「私は書割とかが大変だったな。美術や技術はどうも苦手」

 四ツ木先輩、利香先輩の順でいう。

「でも、楽しかったですね」

「ああ」

「本当に」

 三人で顔を見合わせる。誰からともなく、笑った。

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