25.
とうとう学園祭の日がやって来た。演劇部の割り当ては、二日目の午後一だ。俺はクラスの担当を一日目の午前に割り当てられていたので、それ以外の時間は暇になる。といっても劇の準備もあるから、二日目はあまりのんびりしていられないのだが。
ダメ元で利香先輩に一緒に学園祭を回れないか訊いたら、一日目の午後が空いていると返答があったので、一緒に回る事になった。
「どうしたんですか、利香先輩。その格好、衣装じゃないですか」
生徒用玄関で合流した利香先輩は、劇での衣装を身に纏っていた。素敵で格好良い男装だ。長い髪と舞台用のメイクも相俟って宝塚のオスカルを思い浮かべる。流石にあれ程けばくは無いけれど。
「ついでだから、舞台の宣伝して回ろうかと思って。看板も持って来ちゃった」
確かに利香先輩の手には、「2日目 13時開演 体育館 演劇部です!」と書かれた看板が握られていた。利香先輩が格好良いから許すが、折角の文化祭デートなのに……と、ちょっと残念な気分だ。いやしかし、舞台衣装の利香先輩とデート出来る、きっと最初で最後の機会だ。折角だから楽しもう。
「ちゃっかりしてますね! さて、どこから行きましょうか」
文化祭マップをポケットから引っ張り出して広げて覗き込む。隣で利香先輩も同じ様にして同じマップを見るから、距離が近くてどぎまぎした。
「一階から順番に回って行く?」
「でも、展示系はあんまり面白くなさそうですよね。模擬店とかイベント系だけ回りましょうよ」
「そうしよっか」
二人並んで歩き出す。擦れ違う人みんな利香先輩を振り返った。利香先輩は笑顔で堂々として、時々手を振ったりしている。そんな人の隣を歩いている事が、何だか気恥ずかしい。けれど同時に、誇らしかった。
学校内を回りながら美味しそうな物を片っ端から買って二人でシェアした。利香先輩は衣装のサイズがぴったりで作られている為、あまり沢山は食べられないの、といいながらもその食欲を発揮していた。どこに消えたんだ、食べた分は。質量保存の法則が乱れる! ……あれ、質量保存の法則ってこういう使い方で良いんだっけ?
「優衣ちゃん、口元にソース付いてる」
ふふ、と笑う利香先輩が可愛くて今日も生きるのがつらい。
思わず天を仰ぎそうになりつつ、慌てて口元を拭った。
ちょっとしたゲームをやっているクラスもあった。幾つか挑戦したが、そこの一つで猫のぬいぐるみを手に入れた。赤ん坊くらいの大きさがあるやつだ。
「これ、利香先輩にあげます。今日付き合ってくれたお礼に」
差し出すと、ふわっと微笑んで受け取ってくれた。
「ありがとう、大事にするね」
ぎゅっとぬいぐるみを抱き締める利香先輩マジ尊い。あんまり嬉しくて、うふっと変な笑い声が漏れた。
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