22.
「じゃあまた、学校でね」
「はい、今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとう」
じゃあ、と手を振って、改札前で利香先輩と別れる。俺の胸元では、丸く切り取られた海が輝いていた。
電車に揺られる。窓の外は長閑な田園が広がっており、季節柄まだ陽は高い。青々とした稲が眩しくて、目を細めた。
二十分近く電車に揺られ、自分が住む地に戻って来た。自転車を漕ぐ。太陽光は確かな熱を伝えてくるが、風は少し涼しかった。
「ただいまー」
玄関扉を潜る。
「おかえり、優依」
母が出迎えてくれた。
「……あら? そのネックレス、どうしたの?」
買ったの?と首を傾げる母に、
「今日会ってた先輩に貰ったの。手作りなんだって」
と、靴を脱ぎながら答えた。
「へえ、器用な子なのね。きらきらして素敵じゃない」
「でしょー!」
えへへと笑って、リビングに入る。ダイニングのテーブルには食べかけのケーキとコーヒーカップがあった。
「あ、お母さんケーキ食べてる」
「優衣と食べようと思って準備してたのに、優依、出掛けちゃうんだもの。食べる?」
「これはベイクドチーズケーキ! じゃあアイスティー淹れて!」
こってりしたベイクドチーズケーキには、ロイヤルミルクティーよりアイスティーだ。間違い無い。
「はいはい」
仕方の無い子、みたいな感じで母がキッチンに立つ。前世ではこんな風に母に甘えた覚えが無くて、何だか新鮮だった。覚えていないだけで、幼少期には甘えて過ごしたりもしたんだろうか。
テーブルに着いて、アイスティーとケーキが出て来るのを待つ。
前世が酷く不幸だったとは思わないが、今の生活は間違い無く幸福だった。故に、利香先輩の件をどうするかが、酷く悩ましかった。
もし、「私」が同性の先輩を好きだと知ったら。
今機嫌良さそうにアイスティーを淹れてくれている母は、どう思うのだろう。
今頃仕事をしている筈の父は、どう思うのだろう。
やはり俺のこの想いは、胸に秘めておくべきなのだろうか。利香先輩の笑顔が思い浮かぶ。ふるふると、首を左右に振った。
「何してるの」
アイスティートチーズケーキを持った母が不思議そうな顔をしている。
「何でもない」
笑って、誤魔化せただろうか。
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