21.

  選び終えた利香先輩が会計を済ませるのを待って、隣の本屋のブースに行った。こちらも俺の住む場所にある本屋と比べると随分広い。

 利香先輩は手芸関連の本を二冊と、少女漫画のコミックスを何冊か手に取った。

「優衣ちゃんは漫画って読む?」

「少年漫画を少々」

「少女漫画は読まないんだ」

「あんまり読まないですね」

「これ、面白いから今度貸してあげるよ」

 そういって選んだ本の表紙を俺に向ける。綺麗な絵柄で、儚げな少年が描かれていた。

「楽しみにしてます!」

 恋愛物じゃないと良いのだけれど。

 そう思いながら、また利香先輩が会計を済ませるのを待った。

「本、持ちますよ。服を選ぶのにあんまり荷物があったら邪魔でしょう」

 そういってさっと利香先輩の手から本の入った紙袋を奪う。利香先輩はちょっと驚いた様な顔をして、それから笑顔を浮かべた。

「ありがとう。服買ったら、すぐ返してね」

「はい!」

 エスカレーターで、一階に降りた。

 服屋では利香先輩が何着か選び、その中から更に俺が何着かに絞る、というとてもデートっぽいイベントが発生した。利香先輩が選んだのはパステルカラーのカットソーやチュニック、ワンピースだった。どれも似合うので甲乙つけ難かった。が、何とかそれぞれの服を一着ずつ選んだ。

「利香先輩は淡い色合いが好きなんですね」

「……そういえば、そうね。箪笥の中もこんな色ばっかり。たまには違う色合いの服も買ってみようかな」

「このダークブルーのワンピースどうです? ちょっと裾が短めですけど」

 利香先輩の体に当ててみる。膝より少し上の丈で、今日着ているワンピースより少し短かった。

「そうね……これも買ってみようかな」

 会計が終わるのを待って、エスカレーターで三階の喫茶店へ向かった。

「好きなのを頼んでね、奢っちゃうから」

「良いんですか? 遠慮しませんよ」

「どーんと来い! バイトしてるから大丈夫」

 胸を張る利香先輩が可愛くて生きるのがつらい。

「バイト? 部活やってて、そんな暇あるんですか?」

「知り合いのお店でね、夏休みの間、部活のあととか、無い日とかに入ってたの。今日この日、買い物をする為に」

「凄いですね、私なんて小遣いで生きてますよ」

「高校生の内はそれでも良いんじゃないかな」

「ですかねえ」

 いいながらメニューに手を伸ばす。少し迷って、ナポリタンとオレンジジュースを頼んだ。利香先輩はミートドリアとアイスティーだ。

「映画の時もそうでしたけど、利香先輩って結構がっつりした物食べますよね」

「演劇やるにも体力付けないとだからね」

「夏バテ知らずっぽいですよね、利香先輩」

「そういえばした事無いな、夏バテ」

「流石です」

 あ、と利香先輩が声を漏らす。そういえば、といって利香先輩は鞄からプラスチックケースを取り出した。ぱかりと蓋が開けられると、何やらきらきらした物が目に映る。

「これは……?」

「レジンで作った物だよ。好きなのあげる」

「これが……手作り……? まるで売り物じゃないですか! 凄い!」

 ピアス、ストラップ、イヤホンジャックストラップ、ネックレス、イヤリング、それに指輪まである。どれもきらきらで可愛くて、素敵だ。海っぽいデザインの物や、宇宙っぽいデザインの物もある。

 利香先輩は照れ臭そうに笑った。

「素人の細工だから、恥ずかしいんだけど」

「いやいや、素人の出来じゃないですって! うわー迷っちゃうなあ。このピアス素敵だけど、穴空けてないし……」

「イヤリングにして明日渡す事も出来るよ」

「そんな事出来るんですか!」

 へー、はー、ほえー、と間抜けな声を漏らしながら、一つ一つ手に取ってデザインを見て行く。その中に、ガラスの球体の中に青い色と、星の砂と、小さな海藻の様な物が入っているネックレスを見付けた。きらきらと光を反射している。まるで海だ。

「これ、綺麗ですね」

 俺は前世で山暮らしだったし、今も内陸の方に住んでいるからか、海に妙な憧れがあった。海を切り取った様なそのネックレスはとても魅力的に見える。

「それね、グリーンモスっていう苔が入ってるの。あと星の砂も。ラメも結構入ってて、きらきらして綺麗でしょ」

「へえ、これ苔なんですか……素敵ですね。これが欲しいです!」

「気に入って貰える物があって良かった」

 笑顔が眩しい、可愛い、美しい。

「早速付けて良いですか?」

「勿論」

 首の後ろに手を回して金具を留める。

 胸元で海を切り取ったかの様なそれが揺れ、光が透けて皮膚に青い色が映る。

「ありがとうございます! 利香先輩」

 一生の宝物だ。

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