12.
クッキーとロイヤルミルクティーを堪能して部屋に戻り、ベッドに置きっ放しだったスマホを拾い上げる。手帳型カバーを開くと、ラインの通知が来ていた。利香先輩からだ。
『薫くん、優依ちゃうんの事お気に入りだから、あんまりいじめないであげてね』
『あ、この話、薫くんには内緒ね!』
可愛い猫のスタンプ。
はて、お気に入りとは。
まさか、恋愛感情的な意味で好きとか、そういう話ではないだろうな?
むむむむむ、と小さく唸って、それから考える事を放棄した。可愛い後輩程度の意味合いだろう、きっと。
四ツ木先輩はみんなに分け隔て無く緩く接しているが、利香先輩と良く一緒に居る分、俺と関わる事が多い。それに俺が利香先輩に犬みたいに懐いているから、面白いのだろう。だから、一年の中ではお気に入り。そんな程度の話だろう、多分。
何か返信しようと指を彷徨わせていると、しゅぱ、と音がして次のメッセージが来た。
『そうそう、日曜日の映画だけど、いいよ』
『ちょうどなにか見たいなって思ってたの』
「うひょお!」
思わず奇声を漏らした。ガッツポーズ。いえい!
そのあと、何時にどこで待ち合わせるかなどをラインで打ち合わせて、遣り取りを終えた。そしてベッドの上に寝転がってじたばたする。やった、やった! 利香先輩とデートだ!
一日プライベートで一緒に過ごして、それで、それで……それで、もしこの気持ちが恋心だったら、俺はどうするのだろう?
俺は女で、利香先輩も女だ。この国の今の法律では、女性同士の婚姻は認められない。地域によってはパートナーシップ制度とやらがあるが、それでもまだまだ世間から認められている関係とはいい難い。
愛があれば、なんていうが、そもそも利香先輩がノーマルだったらどうするのだ。それを確かめるには告白しか無いが、今の関係を壊してまで確かめて、想いを伝えて、本当にそれで良いのだろうか。
利香先輩を困らせるだけではないか?
「うううぅぅ」
さっきまでとは違う理由でじたばたする。枕に埋めた顔を上げて、溜息を吐いた。
「どうしたら良い……?」
答えてくれる者は居ない。
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