11.

 帰宅後、日課となった利香先輩へのラインを送る。

「ちょっと、四ツ木先輩に対して塩対応過ぎましたかね、っと」

 声に出しながら打ち込んで、送信。暇潰しに他のアプリを開こうと、ラインを閉じた途端にてけてん、と軽快な音が鳴った。

 俺が帰宅した直後で利香先輩はまだ家に着いていないだろうから、返信はもう少しあとかと思ったのだが。

 見ると利香先輩からの返信ではなく、四ツ木先輩からのメッセージが来ていた。はて、何だろう。

 開いてみると、『わかってるならもう少し優しく!』と、犬が泣いているスタンプが来ていた。おや、どうやら一緒に居るらしい。隣町の駅に着いたか、歩いている途中かという所だろうか。

『乙女のラインを覗き見るなんてふてえ野郎ですね! よくないですよそういうの!』

 怒っている兎のスタンプと共に送ると、落ち込んだ犬のスタンプが返って来た。

 そして今度こそ利香先輩からの返信が来る。

『薫くんにもう少し優しくしてあげて?』

 そういいつつ企み顔の猫のスタンプが付属していた。

『はい!』

 と返事を返し、OKの文字が付いた猫のスタンプを送る。

 少し待ったが返信は無かったので、着替えてリビングへと降りて行った。そういえば映画の件、利香先輩は忘れてしまったのだろうか? あ、香ばしい、良い匂いがする。これはクッキーと見た! 食べてから利香先輩に催促のラインを送ろうか。

「優依、最近機嫌が良いのね。演劇部、そんなに楽しいの」

 予想通り焼き立てのクッキーが乗った天板をミトン越しに持つ母が声をかけてきた。

「楽しいよ! 素敵な先輩と面白い先輩が居て、入って良かった」

 満面の笑みで答えると母は微笑んだ。

「それは良かったわ。丁度クッキーが焼けたし、お茶にしましょう。優依はコーヒーより紅茶派だったわよね」

「うん!」

 コーヒーは「俺」なら兎も角、「私」の舌にはまだ苦過ぎる。紅茶も砂糖が入っている方が良いくらいだ。

「ね、ね。ロイヤルミルクティーが良いな。甘いやつ」

 強請って、仕方無いわねえと笑う母に、俺はガッツポーズを決めた。

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