10.
「衣装を作っていた時、二人で何を楽しそうに話してたの」
帰り際、利香先輩の方から俺に近付いて訊いてきた。
「海堂が如何にお前を好きかって話だよ」
俺の代わりに四ツ木先輩が答えると、利香先輩は目をぱちぱちと瞬いた。それから、顔を赤くして俺達を睨む。
「部活中に何の話をしてるの! もう」
ぷい、とそっぽを向く利香先輩が可愛くて今日も生きるのがつらい。
この頃には俺達はすっかりトリオとして周囲に認知されていて、そんな遣り取りを見ていた他の部員達が、またやってるよ、と笑っていた。
俺としては、利香先輩とのコンビと捉えられたかったのだけれど。残念だ。
だが、前世ではあまり良くしてやれなかった四ツ木先輩に、せめて現世では友人としてでも後輩としてでも、良き人であろうと思う部分もあって、だから今の関係は悪くない様な気がしていた。
後継ぎが必要だからと子を生しはしたが、そこに愛と呼べるものは無かった。一緒に暮らす内に情はわいたが、終ぞ愛が芽生える事は少なくとも俺の方には無かった。彼女がどう思っていたかは分からずじまいだが。思えば本音で話した事も無かったかもしれない。それだけ俺は彼女を愛していたし、死ぬその瞬間まで恋しいと思っていたのだ。妻には悪い事をしたと思う。
今の冗談をいって笑い合える関係は、俺の罪悪感を和らげてくれた。
そんな訳だから、利香先輩と四ツ木先輩が仲良くしているのは、実は何だかちょっと落ち着かなかった。元カノ二人が仲良くしている様なものだ。それもお互いその事を知らずに。ちょっとした冷や汗ものだろう。
そんな事を考えている内に校門を出る時がやって来た。明日は部活が休みだから、明後日まで利香先輩には会えない。
「ううっ、利香先輩に会えない日があるなんて!」
わざとらしい泣き真似。
「大袈裟だなあ、優依ちゃんは」
困った様に微笑む利香先輩は今日も女神だ。正義だ。大勝利。
「俺との別れは惜しんでくれないの」
四ツ木先輩の言葉にふっと真顔に戻って、
「四ツ木先輩はお呼びじゃないです」
と、腰に手を当て宣言した。がっくり、と肩を落として見せる四ツ木先輩。
それから三人で笑って、また、と手を振って別れた。
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