9.
「利香先輩、次の日曜日、予定あったりします?」
休憩時間、意を決して訊いてみた。
「日曜? 特に無いけど……どうかしたの」
心の中で小さくガッツポーズ。
「実は見たい映画があるんですけど、一人だと寂しいし、やっぱり見たあと感想をいい合いたいじゃないですか。だから、良かったら一緒にどうかなって」
そわそわとする心を抑え込んで本題を切り出す。
何の映画でどんなあらすじなのかなどを話している内に、顧問の声が練習の再開を告げる。答えはあとで良いので!といって、練習に戻った。
練習中、つい利香先輩を目で追ってしまうのだが、今日も今日とて利香先輩を見詰めていた。練習が一段落して、みんなで衣装の用意をしていると四ツ木先輩が側に来て、
「海堂はほんとに利香が好きなんだな」
といってきた。
俺はにへらと笑って四ツ木先輩を見上げ、
「はい!」
と、それはもう良い声で答えた。
四ツ木先輩が苦笑じみて笑う。
「何がそんなに良いんだ。確かに見た目は悪くないし、演技も上手いけど。すぐに入部しに来なかったって事は、演劇には興味無いんだろう? 入学式の次の日に部活動紹介やってるんだから、興味があったらほかの一年みたいにすぐ来る筈だ」
「部活動紹介、利香先輩出てなかったですよね。だってあんな素敵な人が出てたら、私絶対即行演劇部に行きましたもん。そういえば部長もいませんでしたよね」
先輩の言葉に自分でもあれ?と思いながらいう。確かに入学式の翌日には部活動紹介があった。けれどそこでは四ツ木先輩も利香先輩も見た覚えが無い。見ていたら絶対に、その時に彼女達だったと気付いていた筈だ。
「ああ、あいつ風邪で休んでたっけ。俺は裏方だから音響やってたから、ステージには出てないよ。あの時ほんとは利香が主役で芝居のワンシーンを見せる予定だったんだけど、急に休まれたから他の子がやったんだ。そんで、挨拶もあいつがやる予定だったところを、その子がやってくれたんだよ。挨拶だけでも代わってあげたかったけど、そうすると音響やる奴が居なくなっちゃうからな」
「ははあ、成程。風邪の所為で私と利香先輩の出会いが遅くなったんですね。今すぐ全世界の風邪菌を滅菌してやりたいです」
「ほんとに、あいつのどこがお前にそこまでいわせるんだ」
使命感に燃えていると、四ツ木先輩が今度は呆れた風に笑っていった。
きょとんとして四ツ木先輩を見る。何と答えるべきか、まさか前世で恋人同士だったから、なんていえない。首を捻って一生懸命考えた。
「そうですねえ……先ず見た目がとっても素敵です。いつもにこにこしてて、その笑顔が綺麗で。ストレートのロングヘアーもポイント高いです! 演技が上手いのも格好良くて好きですね、衣装を着たら一層素敵なんだろうなって今から楽しみです。あと、優しい所も好きです。利香先輩を見て入部を決めた、なんていう変な一年生にも普通に接してくれて。私の憧れです」
今度は四ツ木先輩がぽかんとした。それから堪え切れない笑い声を零す。
「何ですか、人が真面目に答えてるのに、何で笑うんですか」
むっとして眉根を寄せると、四ツ木先輩は笑いながら、悪い悪い、と全く悪く思っていない様子で謝ってきた。
「海堂は本当に利香が好きなんだな、って思ったら、何だかおかしくて」
「取ったら嫌ですよ」
「取らないよ」
顔を見合わせて、今度は二人で笑った。
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