6.

 翌日、学校の校門で利香先輩を見付けた。

「利香先輩! おはようございます!」

 ぱあっと勝手に表情が明るくなって、手を振りながら駆け寄った。犬かな、と内心思う冷静な自分もちょっと居た。

「優衣ちゃん。おはよう」

 天使の微笑みにノックアウトされる。眩しい。

「俺には挨拶無し?」

 その声で、四ツ木部長が利香先輩の隣に居た事に気付く。

「あ、居たんですか? すみません、利香先輩しか目に入りませんでした! おはようございます!」

「いっそ潔いな!」

 笑われてしまう。だって本当の事なんだ、仕方が無いじゃないか。四ツ木部長とはそこそこ話してきたから、これくらいは許してくれるだろう。何せ優しいし、ユーモアのある人だから。

「そういえば幼馴染だっていってましたもんね、一緒に来るなんて仲良しですね!」

 そういうと二人は顔を見合わせて、照れ臭そうに笑った。

「そうね、小学校の時は揶揄われたりして、暫く話もしなかったけれど」

 四ツ木部長を見上げながら利香先輩がいう。

「そうだったな。それが突然、演劇部を立ち上げるから名前を貸して!だもんな」

 懐かし気に目を細めていうのは四ツ木部長。

「はえ~、そんな時期があったなんてとても思えません。しかも小学校からって事は、結構長い期間ですね!?」

 中学だけを切り取っても三年間だ。よくそれだけ会話の無かった相手にお願い出来たものだ。やはり利香先輩の行動力は凄い。そしてそのお願いを快諾した四ツ木部長は人が良過ぎやしないだろうか。騙されて浄水器とか壷とか買わされない? 大丈夫?

 話している内に玄関に入り、それぞれの学年の下駄箱へ向かう。内履きに履き替えて、合流して集合場所へ向かった。部員の約半数が既に揃っている。といっても全員合わせても十名程度しか部員は居ないのだが。

「おはようございまーす!」

 挨拶しながら教室に入ると、挨拶が返って来る。演劇部は文科系の部活動だが、中身はまるで体育会系だった。最初はちょっと気後れしたものだが、慣れるとはきはきしている感じが案外居心地好い。

 数分もすれば全員が集まり、練習開始の時間となった。

 体育座りで劇の稽古を見詰める。利香先輩は主役だった。劇の内容はヴェニスの商人をアレンジしたもので、上演時間に合わせて随分と端的なものなっていた。

 しかし男装役である利香先輩の、堂々とした振る舞いは完璧だった。とても見応えがある。それに話もコミカルで見ていて楽しかった。上手く纏められている。

 脚本を作ったのは国語教師で顧問の九十九真司先生で、彼は実は、小説家志望だったのだと照れ臭そうに話していた。

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