3.

 彼女の名前は須村利香といった。去年、演劇部を創部したメンバーの一人で、副部長を務めている。

 部長は三年生の男子生徒で、四ツ木薫といった。彼と目が合った瞬間、また俺は電流に貫かれた。

 切れ長の目、ちょっと高い鼻、特徴的なアヒル口。彼は、俺が前世で結婚した女性に良く似ていたのだ。そしてやはり直感する、ただ似ているのではなく、本人だと。俺の前世がそういっていた。

 あまりの事に混乱しながらも、俺は何とか日常生活をこなし、部活にも出席していた。体育祭が迫っていた所為もあり毎日が目まぐるしくて、彼女と彼の事を考える余裕はあまり無かった。

 七月下旬。その体育祭が終わり、期末テストも終わり、夏休み目前だった。

 夏休み中も演劇部は練習があり、週に四回は登校する事が既に決まっていた。

 創部し立てで、大会などには出ていないが、学校祭での舞台に向けて皆一生懸命だった。普段は空いている教室で練習し、時々体育館を一時的に借りてステージで練習するというのが基本で、合間に大道具や小道具をみんなで準備していった。

 この頃になると俺も余裕が出来ていて、彼女と少しずつ距離を縮める事に成功していた。ラインのIDも交換したし(これは部員全員とほぼ強制だったが)、大体どの辺に住んでいるかも(人伝に)訊いて知っていた。ストーカー? 断じて違う!

 俺は彼女が、前世の恋人の現世であると確信していた。そうでなくても、俺の好みにドンピシャで、どうにか彼女とお近付きになりたいと思っていた。半面、それで良いのだろうかと悩みもした。

 前世では男女だったが、現世では女同士。同性間のあれこれを否定する気は毛頭無いが、自分がその当事者になるだなんて考えても居なかったし、そもそも相手がノーマルでは叶わぬ恋だ。……いや、これは恋なのか?

 分からない。

 ただ、俺は前世の彼女が大層好きだったし、今も愛していた。そして現世の彼女と接していて、見た目だけでは無く、内面も大変好ましいと、そう感じているのは確かだった。

 毎日自室で悩みに悩み、結論は出ないまま夏休みを迎える。

 そして俺は、この気持ちが何なのか確かめる為に、須村利香をデートに誘う事にした。しかし急に誘っては断られるのがオチなので、先ずはラインで交流する所からだと考える。その為には先に部活である程度接点を持っておくべきではないだろうか。

 そんな訳で俺は、須村利香と二人で談笑出来るくらい仲良くなる事を当面の目標にした。

 夏休みに入って最初の練習日、休憩時間に俺は早速須村利香に話しかけた。第一声は決めていた。

「先輩、私、先輩が通し稽古してるのを見て、入部を決めたんですよ」

 須村利香はきょとんとする。

「……海堂さんだったよね」

「はい、優依って呼んでください!」

 覚えていてくれた。それが嬉しくて自然と頬が緩む。

「じゃあ、優依ちゃん。それ、ほんと?」

「ほんとですよ! 堂々としてて、格好良いなって思って。もっとずっと、間近で見てたいなって思ったんです」

 俺がそういうと、彼女は照れた様な顔をして、

「ありがとう」

 と微笑んだ。

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