2.
それから数週間が経って、夏の気配が近付いていた。俺はあの上級生を探したくて、しかしどう探したものか分からなくて、毎日をもやもやとした気分で過ごしていた。
しかし、転機が訪れる。
ある日の放課後、体育館の側を通った時、あの声が耳朶を打ったのだ。前世から変わらぬ、鈴を転がす様なあの美しい声が。
慌てて体育館の中を覗く。ステージの上に、あの子が立っていた。
ぼうっと見惚れていると、向こうが俺に気付く。一瞬目が合った。瞬間、体に電流が走る。
彼女は俺の存在など無かったかの様に、舞台上で台詞をいい続けた。
彼女が台詞を終えて、舞台袖から消えて漸くはっと我に返る。それから体育館内を見回して気付いた。どうやら演劇部の練習中らしい。
邪魔をしてはいけないと思う半面、今を逃しては彼女ともう二度と話せない様な気がして、思い切って体育館内に足を踏み入れた。
「何か用? そのリボンの色、一年生よね」
近くに居た、別の部員に声をかけられる。リボンの色からして、彼女と同じ二年生だろう。
「えっと……あの……」
何も考えていなかった為、しどろもどろになってしまった。これでは不審者だ。実際相手の目に不審の色が浮かぶ。これはまずい。
「と、通りがかったら声が聞こえて、何をしているのかと思いまして……」
嘘はいっていない。
相手はそう、と頷くとちらりとステージを見遣って(舞台では劇の稽古が続いていた)、それからまた俺を見た。
「私達は演劇部で、今は学校祭でやる劇の練習中。通し稽古をしているの。……良かったら、見学していく?」
「はいっ」
考える前に返事をしていた。その人に促されてステージに近付く。体育館の真ん中辺りから、舞台を眺めた。再びあの子が出て来ないかと期待しながら。
そして数分後、期待通り彼女が出て来る。どうやら主役の様だった。台本を片手に堂々と話す彼女は、輝いて見えた。
やがて通し稽古が終わり、俺を招き入れてくれた先輩が声をかけてくる。
「興味があるなら入部しない? 今から役は無理だけど、裏方の人手が不足してるのよね。去年創部されたばかりで、全然人が居ないの。どう?」
それはとても魅力的な誘いだった。何より彼女の側に居られる。
俺は次の日には入部届を出していた。
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