外つ歌:怪しい怪人巨大ロボット

 今だ色濃く放射線源が残る草原を、怪しい怪人みたいな巨大ロボットがベヨンベヨンとありえない足音を立てながら歩いていました。手を大きく振って、実に楽しそう。

 この機体の名前をレッドフルムーン号といい、帝國関係者は認めたくない事ながら、帝國の最新鋭フレームであるオーロラをもとに作られた機体でした。操縦者は当然ユラ・フルムーン。作るロボット、作るロボットが怪しい怪人過ぎて芸術点が高いという謎の慰められ方をする人物でした。

--試運転快調。

 ユラそう言って勢いよくレバーを前に惜しました。ベヨベヨベヨと足音が早くなり、振動で前方視界が悪くなって普通のパイロットなら気持ち悪くなって倒れるところを、ホホホ、今度はいけるわと高笑いしてシートを変形させてお立ち台にして自画自賛しました。

 ピロット族にはろくなヤツがいないのかという話ですが、だいたいその通りです。

 彼女は現在試運転中。惨劇の山を攻略したのちに、最後の戦いのための準備を行っている最中でした。


--あれ、人感反応?

 レッドフルムーン号のメイン画面表示を見て、ユラは首を傾げました。一人残らず救助して、確かスナコという人物が最後の避難民を救出したはずです。

--人がいないのに人がいるなんて面妖な。

 故障、という可能性も少なからずあり、ユラは目を細めました。だいたいこういう顔をしているときはどうごまかそうか考えている時です。

--まあ、まだ故障とは決まってないし、助けに行きましょう。そうしましょう。

 ユラはレバーをさらに押すと、ベベベベベベという音を立てて走って行きました。


 一〇分ほどでユラは歩いてくる三人の黒づくめのおっさん、一部初老のおじさまが歩いているのを見て騒ぎだしました。趣味に合った、というのもありますが、汚染地帯まっただ中ということも理由の一部ではありました。

 勿論最大の理由は、

--ぎゃーす。壊れてなかった!

です。

 彼女は慌ててレバーを戻しました。


--ヘイ、そこの素敵なおじさまがた。

 彼女は環境服を着て機体から出るとそう言いました。

 隣り合う二人の人物が笑っているのが見えました。


--失礼。この年になると、中々お嬢さん褒められないでね。

--ほうほう。そうですか。んー

 ユラは首をかたむけました。

--もしかして、海法先生ですか? かの有名な実写なのにレタスが作画崩壊したという。

--それは人違いだな。いかにも海法だが。わしは小説の途中で論文を入れた方だ。

--あー。すみません。正直文字ばっかりのはあんまり読んでなくて。

 この時海法先生は六〇歳。真っ白な髪に智慧を凝縮したような目をした黒い革ジャンの人物でした。彼は横の人物を紹介しました。

--こちらはまだ若いが、見込みのある編集でね。久保という。

--ほうほう。はじめまして!

 ユラはそう言った後、あ、放射線の説明をしなきゃと思いました。第三の人物がいたことを、彼女はすっかり忘れていました。

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