外つ歌:見物人

 何か分からないが人も住まないような辺境で大戦争が起きていると、そういう情報が沿海の国々まで流れてきたのは数週間後の話です。

 現代の目からすると随分のんびりした話ですが、これはこの当時において異様なくらいの早い速度での情報伝達でした。馬を一〇〇頭、二〇〇頭乗りつぶしたくらいではこの速度で情報が流れません。この戦争が、当時においていかに大きなトピックスであったかが分かります。

 当然この話は、不死者と戦おうと準備をしていたリチャードとリベカの耳にも入りました。

ーーなんで人がいない土地を巡って争うのさ。

 リベカの言葉に、リチャードは光の見えぬ目で何かを見たような顔になりました。

ーー石油、かもしれないが、別のものかもしれない。

ーー例えば?

 槍の穂先を磨きながら、リベカは尋ねました。リチャードは首を垂れて考えを巡らせました。

ーー町や村に被害を出さないようにするため、か。

ーー戦争があれば町も村も荒れるものだよ。

 それが世の習いであると、納得していない顔でリベカは言いました。

 リチャードは適当に頷きながら、暫くの間を取って口を開きます。

ーー不死者と戦っている、とか。

ーーリチャードみたいな人がいるんだね。

ーー我々のような、だよ。こっちの常識で言って、いささか不思議な感じもあるが。

リチャードは一人で考え始めました。

ーー僕、と同じようにこっちに落ちてきた者がいる、というのなら分からないでもないな。不死者と戦っているのなら、常識的な道徳心と正義心は持ち合わせているんだろう。目的が同じなら共闘することだってできるかもしれない。

リチャードは瞳を動かさずに考えを深めます。隣でリベカが寝転んで昼寝しても気づきません。

ーー問題は、竜だな。竜が僕たちをここに送ったのは、不死者と戦わせるためだと思ったんだが、竜とはまた別の勢力がいるのか。それは竜の考えを無視できるようなものなのか。

ーー戦争地域に行ってみたいな。

 リチャードがようやくそう言った時には夜もすっかり更けていました。

 リチャードは自分の顔に落書きされている事にも気付かず、リベカに旅に出る事を伝えました。

 目標とする地は草原です。

 二人はそこで核兵器が使われていることを知りませんでした。

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