外つ歌 戦車なき戦車戦

 遠距離ミサイル攻撃で始まった戦いを、双眼鏡で覗く男がおりました。

 機体の名前をバンバンジー一号機、名前をスモッグといい、青と呼ばれる少年にくっついて長い冷凍睡眠に入った者で、元はといえば宇宙を旅する交易船の船長だったと言います。

 それが今は草原で戦車戦の指揮をしているのだから、人生正直良く分かりません。

--味方がやられだしたな。

 双眼鏡を覗きながら、他人事のように、そう言います。これは薄情というよりも、感情を切り離さないとうまく指揮が執れないからでした。

 横で地図を見ながらら、頷く人物。口ひげも立派なこの人物も元は交易船の船長です。名をブルーラクーンといい、宇宙海賊と戦ううちに指揮官として重宝されて、今に至ったと言われています。

 二人は古風な紙の地図に駒を置きながら、事態の把握に努めました。

--接近を許せば分が悪いのは仕方ないですよ。モノコックだし、緊急展開のために装甲も最小限だし。

 ブルーラクーンはそう言って、敵の駒の一つを指で弾いてひっくり返しました。

--まあ、それでも勝てますよ。

 損害は損害として、騎兵戦仕様の装甲車は十分な数が展開されていました。損害を一定まで受けても勝てる数という意味の十分です。命を駒にし、結構な数を燃やしながらも、青の送り出した軍勢は勝とうとしていました。

--しかし、敵はこれだけじゃ終わらないよなあ。

--そうですねえ。

 スモッグとブルーラクーンはそう言い合って、偵察情報を待ちました。

 胃の痛くなるような一〇分の後で、高高度の航空機を発見したという報告が入りました。機関砲も対空ミサイルも届かない距離を飛ぶ航空機です。

--銀色か?

--いいえ、腹は白です。

 報告を聞いて、二人は顔を見合わせました。

--対核塗装だと思いますよ、多分。

--だよね。

 これだから核兵器の使用に対する条約を結んでない秘密結社はダメなんだよとスモッグは喚きながら全車待避を呼びかけました。

 キノコ雲があがるまで、たいした時間は掛かりませんでした。


 退避命令を聞きながら、待避できない境遇にあった不幸な人もいました。名を小田桐 諏訪郎といい、装甲車が主力の青の軍勢にあって、めずらしくホバータイプの空中装甲車を操っていました。高い上に足回りが重くてしわ寄せが武装や装甲にきている、あまりパフォーマンスのいい機体ではなかったのですが、一つ理由があって、装甲車いくつかに一つの割合でまぜられて使われていました。


 彼が逃げられなかった理由、それはうっかり生存者を見つけてしまったのでした。


--や……ば……し!

 おおよそ避難誘導していたのに、よりにもよって今のこの時に二人見つけるとかないわー。

 そんなことを言いながら、戦線を離脱、持ち前の、というか、それしか自慢のない速度を利用して、地形を無視して一直線で生き残りの元へ急ぎました。


 歩いていた瞬とドリスの前に現れたのは、この小田桐 諏訪郎の機体でした。

--乗れ! 良いからすぐに走って!

 二人が乗った瞬間に、草原の草が一斉に倒れて、少しの後に逆側に倒れていきました。核爆発が起きたのです。機体は盛大にひっくり返し、転がりながら、草原の窪地へ落ちていきました。巻き上がる灰や砂が落ちてくるのは、それからしばらくしてからでした。

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